透明なサクラの恋(2)


「おかえり、透子」
家に帰ると、珍しく母が出迎えてくれた。
「ただいま。今日は早いね? 」
「うん、今日は先生が学会で午後休診だったから」
「ああ、そうだっけ」
言いながら手を洗い、お茶の支度をする私を見ながら、
「どっちがお母さんかわからないね」
と母は笑った。
「たまには彼氏と遊んで帰ってきてもいいのに」
「いないし、彼氏」
「ええっ? こんな美人を放っておくなんて、最近の男は見る目ないのね」
「まったくだよ」
紅茶の葉を入れたポットに沸かしたお湯を注ぎながら溜息混じりに答えると、母はいたずらっぽく笑った。
「でも好きな人はいるんでしょ? 」
「え? 」
「ね、いるんでしょ? 」
本当にどっちがお母さんだかわからない。
子供のような目で見つめてくる母を見ながら小さく溜息をついて、
「でもその人、私の友達のこと好きだし」
と、砂時計をひっくり返しながら答えると、
「そうなの? 」
と母。 そういえば冷蔵庫にきのう作ったプリンがあるな、と思いつつ「うん」と答えたら、
「透子は諦めがよすぎるよ」
という母の声が背後から聞こえた。

それはよくわかっていたけど。
今更簡単になおるものでもなかった。

彼のことも、もう諦めてしまうのだろうか?
そう思ったら少し怖くなってはじめて、自分が思っている以上に彼のことを好きらしいということに気付いた。
そんなつもりはないはずだったのにいきなり気付かされた。
そのことに驚いて固まってしまったことに気付いたのは、母の怪訝な声が聞こえたときだった。

私はあわてて冷蔵庫からプリンを出して調理台の上に置くと、神妙に、「そうかもしれない」と呟いていた。

何に関して「そうかもしれない」と言ったのか、自分でもよくわからなかった。


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