透明なサクラの恋(1)


彼が私の友達のことを目で追っているのは知っていた。
周知の事実、っていうこともあったけど、私はいつも彼のことを見ていたから。

だから知っていた。
彼が私じゃない誰かに失恋することを。
私は知っていた。

***


佐崎ララは無表情にしか見えないのにとてもわかりやすい私よりひとつ年下の同級生で、入学式で偶然隣の席になって意気投合して以来、学内では一番仲のいい友達だ。

最近彼女の目が彼女のふたつ年下の男の子を追いかけていることに、私はかなり早い段階から気付いていた。
でも彼女は色恋沙汰に関してはどこもかしこも鈍感なので、全く気付いていないようだった。
自分の気持ちにも。
周りの気持ちにも。
私はそのことについて、何の反抗心も持たない。
人間は色々なんだから、鋭いのや鈍いのがいなきゃ面白くないし。
でも願わくば、私も彼女のようにわからないままでいたかった。

わからないままなら、よかったのに。

「サクラさん、サクラさん? 」
放課後、研究室にて、何をするでもなくボーっと座っていたら、目の前に彼が立っていることに気付かなかった。
「あ、麻生さん。おはよーございます」
「何、寝てたのサクラさんは」
「私、目開けたまま眠れるので」
「ホントに? 」
「外界との交信、シャットアウトできるので」
「あはは、あいかわらずかっこいいね、サクラさんは」
そう言って笑うと、彼はパソコンの前に腰を下ろした。
「今日はララさんは? 」
そう訊くとき目がやさしく笑ってるの、あなたは気付いてる?
そんなんじゃバレバレだよ、麻生さん。
あなたも頭いいのに鈍感。
「ララはデートです」
「誰と? 」
「幼なじみの音ちゃんと」
「あ、あの子か」
でもちょっと私が意地悪したくらいじゃうろたえないあたりはさすがに大人。
麻生さんは私と二つしか年が違わないのにすごく大人。
「サクラさんはどうしたの? 」
「ちょっと考え事してました」
すると彼は、へぇ、と言ってパソコンの電源を入れた。
「麻生さん、バレてますよ」
「え? 」
「麻生さん、わかりやすすぎます」
「どうしたの」
「今私が考えてたの、大体そんなところです」
「え? …え? 」
今度はちょっとうろたえている。
こういうところがかわいいな麻生さんは。
「それじゃ、サクラはお邪魔にならないように帰りますので」
彼は、ああ、気をつけてね、と言ったあともまだちょっとうろたえていた。
私はくすくす笑いながら、でもちょっと淋しくそこをあとにした。

わからないままなら、よかったのに。


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