そのちいさなおと(5.2)

片思い初期。今の私は、まさにそんな位置付けなんだろうけど。
とにかく、そういうことに関して不良品の私は、全然ドキドキしなかった。
なぜかドキドキではなく。
私の気持ちはふわふわしていた。

<家族用フリーパス>とはいえ、ふたをあけてみれば普通のフリーパス4枚つづりである。
入り口こそ4人で入ったものの。
笑顔で飯田君に「ごゆっくり」と告げたアズサに腕をつかまれた私は、そのままどこかへ連れ去られた。
「ちょっと、アズサ? 」
「人の恋路を邪魔するやつは、馬にけられて死んじゃうからね」
まったく歩く速度を緩めることなく歩きつづけるアズサに必死で声をかけてみるも、その速度は決して緩むことはなく。
とにかくずんずん歩きつづけたアズサは、ジェットコースターの前でようやく私を解放してくれた。
文句をいおうとした私より早く口を開いたアズサは言った。
「とりあえずこれから乗ろっか! 」
その目はまさに。
少年だった。
「まさか、そのためにこんなに急いで? 」
息も切れ切れに問い掛けると、その少年の目のまま、アズサは言った。
「早くしないと並ぶやんかー。それにトモ、ああ見えて絶叫系嫌いだからさー」
「そうなの? 」
「小学校のときの修学旅行とかすごかったんよ。今ごろ焦ってんのやろなー。」
当時のことを思い出しているのか関西弁の戻りがいつもより多くなりながら、アズサはいたずらっぽく笑った。
「性格悪。」
ついつい毒づいた私のことは大して気にならないくらいジェットコースターに乗りたかったのか、アズサはひとりでそわそわしていた。
面白いと思ってじっとながめていたら、アズサが突然「あ、」と大声を上げた。
「なに? 」
驚いて問うと、
「ララ、絶叫系大丈夫? 」
だって。
フェミニスト。
「すっごい好き。」
そう言ってやると、こともあろうに
「そのセリフは告白クサイぞ」
と、彼は笑った。
ちくりとくるのは当然のことで。
前途多難な初恋へのタメイキと一緒に、
「ばーか」
と小さくつぶやくのが精一杯だった。

明らかに私の人選ミスなんだけど。
もうどうにもならなかった。

最初のジェットコースターの次もまたジェットコースター。
身長差20センチ以上の私とアズサは歩幅もずいぶん違うというのに、またも彼は私の腕をつかんでずんずん目的地に向かおうとする。その繰り返し。
彼に引きずられて小走りで走りつづけた私はすっかりへとへとになってしまい、本日5つ目のアトラクションを終えたところですかさず彼に「ごはんにしよう」と提案した。
もうすでに、14時を回っていた。
それまでとにかく、なんでやねん、ってツッコミを入れてあげたくなるくらいはしゃいでいたアズサがやっと我に返った。
「あ、そういえば、おなかすいた。ものすごく。」
「そういえばじゃないよ、まったく。」
「あれ、ララ、なんか疲れてない? 」
「あんだけあんたに連れまわされたら疲れるに決まってるでしょ」
アズサとこういうデート的空間に来るのは初めてのことじゃないけど、こんなに我を忘れて遊ぶタイプの男の子ではなかった。
だから最初はカワイイとか思っていたけど、なんだか嫌な感じだった。
よくわからないけど、すごく嫌な感じがした。
「ごめんね、じゃあ昼ゴハンオレがおごるから、そこのベンチで待ってて。」
そう言って大急ぎで走っていくアズサの背中を見送りながらついた私のタメイキは異常に深かった。
そういえば、疲れてたんだ。
そう気付いてベンチに腰を下ろすと、もう一度溜息が出た。

目の前を、さっきジェットコースターのところですれ違った6人組が通り過ぎていく。
先頭の二人はさっき見たときも今も、言い争いをしている。
すごいなぁ。
そういえば私、さいごに誰かと言い争ったのっていつだっただろう。
よく見ると6人の(というか先頭の4人の)相関図はけっこう複雑みたいで、ドラマみたいだなあ、と、うわのそらで思った。


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