そのちいさなおと(5.3)

「ごめん、俺、何食べたいとか、全然聞くの忘れちゃって」
どれくらい時間がたったのかもよくわからない。
ずっとうわのそらで何も考えず待っていた私にかけられた声。
振り返るとそこには、両手いっぱいに色々な食べ物をのせたアズサと、音と、飯田君が立っていた。
そこに三人立っていたことに、私はなぜか、心底ほっとした。
「らあちゃん大丈夫? すっごい探したんだよ!」
「探したって、遊んでないの? 」
「うん」
驚いて声も出なくて、飯田君のほうを見ると、彼も「そうだよ」、という顔で頷いた。
遊んでないって。フリーパスなのに。
「ちょっとアズサ! 」
「えっ、なに、俺? 」
「あんたのせいでしょ、邪魔してるでしょ! 」
すると飯田君、
「いいっすよ、俺、乗れるものあんまりないし。」
とさらりと言った。
飯田君、いい人なんだかずれてるんだか。
あれ、でも。
「携帯は? 」
「つながらなかったんだ。らあちゃん、今日持ってきた? 」
問われて。もしかして、と思って鞄の中を探ってみたが。携帯らしきものはどこにも見当たらなかった。
「・・・ない」
「ララ、あんだけ俺に当たっといて・・・。」
ふう、と溜息混じりに言ったアズサだったが、飯田君に
「でも、おまえも通じなかったし。」
と突っ込まれる。調べてみると、アズサの携帯はバッテリーが切れて暗転していた。
わたしたちはどうしようもないお邪魔虫だったわけだ。
なんてことだろう。
と、私が自己嫌悪しているにもかかわらず。
「それより飯食おうよ、俺腹減ったー」
そんなことはどうでもいいじゃん、という顔でアズサは言った。
この男は。と思って睨みかけてふと気付いた。
アズサがずいぶん、疲れていることに。
あれだけはしゃげば当然のような気もしたんだけど、何かがおかしい。
「ララ、何食べたい? 」
何かがおかしい。ナニカガオカシイ。
声をかけられたことにも気付かず、ずっとアズサを凝視する。
「ララ? 」
のぞきこまれて。
アズサの目が怯えているのが、見えたような気がした。
「どうしたの? 」
でも、その影はほんの一瞬で消えてしまい、気付いたときにはいつもの顔で笑っていた。
私はわけがわからなくなって、
「アメリカンドッグ」
と言った。
別にアメリカンドッグなんか全然食べたくなかった。ただ何か喋らなきゃ、と思って口をついたことばがこれだった。
なんて情けないんだろう、あたしは。

          ***

遅めの昼ごはんを食べた後は4人でゆるやかな乗り物に乗り、お化け屋敷などに入った。
そしてそろそろ日も暮れかけたとき、アズサがふと言った。
「ララ、なんか乗りたいの、ある? 」
遊園地にいる間じゅうずっと、なんだか変だったアズサ。
なんで変だったのかやっとわかった。
彼はわたしのことを見ていなかった。
覗き込んでも笑いかけても、私のことを見ていなかった。
最後の最後に見てくれたから、やっと気付いた。
わたしはそれが思っていた以上に嬉しくて、思っていた以上に彼のことが好きなことに気付いてしまった。

気付いてしまった。

「ララ? 」
「観覧車」
「ん? 」
「観覧車に乗りたい」
我ながら乙女な選択で恥ずかしかったが。
気付いたら口をついて出てしまったのだから仕方ない。
彼は「わかった」と言った。
その顔は逆光で、よく見えなかった。


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