そのちいさなおと(4)

「あれっ、ララ、久し振りじゃん」
必修の授業、とりあえずそろそろ出席がぎりぎりなやつからリハビリをはじめようと、目だたなそうな隅っこの席に朝早くから陣取って講義の開始を待っていると、聞き慣れた声がした。
「あ、透子」
振り向いた私に軽く手を上げ、隣の席に腰を下ろした彼女は、私の数少ない大学内の友達で、なんだか奔放な、すらりとした美人だ。
「元気だった? ララ、すっかり音信不通なんだもん」
「うん、特技だから」
まじめな顔をしているわりに変な私の回答に透子はくすりと笑い、
「いい特技だね」
と言った。
「透子は最近どう? 」
「んー、まあ、ぼちぼち」
会話を交わしつつ鞄の中からテキストやノートを出す彼女を見ながら、しまった、テキスト忘れた、と思っていると、ポケットに入れておいた携帯がぶるぶるふるえた。
教室に入るときに気合を入れて切り替えた、久し振りのマナーモードってやつにびっくりしてびくっとした私をみて、透子はまたくすくす笑った。
「ララ、時代に取り残されてるよ」
「そんなことないもん」
ちょっとばつが悪いながらも携帯を取り出してぱかっと開くと、メールのアイコンがちかちかしていた。
「あ、メールだ。」
「お、ちゃんと返事打ちな。」
そう言って透子はにっと笑った。
メールなんて来るの、何日ぶりだろ。
ふと思って。
確かに時代に取り残されてるなって感じた。
そういえば登校拒否してる間、何してたんだっけ。

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 らあちゃん。
 日曜日、遊園地に行きませんか?
 トモくんが家族用フリーパスを当
 ててしまって(4人分のフリーパス
 )、行く人を探しているのです。
 らあちゃん実は遊園地好きだし。
 どうかな?

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メールは音からだった。
遊園地。
その響きに、いろんな意味でくらくらした。
その健全さとか。
いつぶりだろうとか。
この年で遊園地って、とか。
そもそもどんなものに応募したんだ、彼。とか。
いろいろくらくらしたけれど、打った返事は

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 行く!行きたい!遊園地!!
 お邪魔でなければ是非!!

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なんてノリノリなものだった。
遊園地というきらきらした響きに、私の中の弱った部分がぴくりと反応したのだ。
「なんかララ、突然キラキラしてるよ」
もしかしたらにやつきながら返事を打っていたのかもしれない。
送信ボタンを押してぱたんと携帯を閉じると、透子が珍しそうに私を覗き込んだ。
「なんかね、遊園地、行くの」
「遊園地? 今のメール? 」
「うん」
「そうか、楽しんでこいよー」
透子がそう言ったところで教授が入ってきた。
久し振りに見る教授。
リハビリって言う名目で来たけど、別に大丈夫だと思っていたのに。
体中の細胞がざわざわと、この席にいることを嫌がった。
これは相当なリハビリが必要だ。そう思いつつ、大きく深呼吸して自分に言い聞かせる。
日曜日は遊園地だから。
頑張れ。
なんだか小学生みたいだけど、ちょっとだけ落ち着いた。
あれ、そういえば、フリーパス4人分って、もうひとりは誰が来るんだろう。

まさか、と思って。
でももうあの人しか思いつかず。
楽しみにしてしまう自分を抑えることができなくなってしまう。
違うかもしれないっていうのに。
これが『恋は盲目』ってやつかな。

もうひとりはアズサに違いないなんて、思っちゃったりして。


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