そのちいさなおと(16)

晴れた日曜日。
差し込む日差しに目を覚まして起き上がり、あまりの寒さに驚く。
なんだなんだ? と思いながらテレビで天気予報を確認すると、「今朝は今年一番の冷え込みでした」というキャスターさんのおことば。

今年一番の冷え込み。

え、今日って何月何日だっけ、と思ってカレンダーを確認してみると、10月のままだった。
今まで何をやっていたんだろうか。自分のしていたことが意味不明だ。
とりあえず携帯で日付を確認してカレンダーを2枚めくったところで、衣替えすら満足にしていない事実に気付く。
あわててクローゼットの中を開けてみると、涼しげな夏物衣類が我が物顔でその場を占拠していた。

なんでこんなに寒いのにこの中はこんなに常夏なんだ。
おかしい、絶対におかしい、ここ数ヶ月の自分の足取りが思い出せない。

とにかく今すぐに衣替えをしなければ凍死してしまう。いやいやそれは大げさだよ、と思いながらクローゼットの中にある箱の中に入った冬物を引っ張り出し、そこにさっきまで我が物顔でのさばっていた夏物衣類達を放りこむ。
今まで一体どんな服を着ていたんだろうか。よく風邪とかひかなかったな、と思ったら、途端にくしゃみが出た。
まずい。
慌ててさっき引っ張り出したセーターを頭からかぶってエアコンをつける。
あったかい。
ああ、なんか大変だったのか、この二月。
妙な感慨。
またくしゃみが出た。
そこへタイミングよく携帯がなった。
「もしもし、ララ、寝てた? 」
「寝てないよ、衣替えしてた」
「あ、衣替えー? 」
私のことばを聞いて、電話の主はくすりと笑った。
誰のせいで季節感覚が狂ったと思ってんだバカ。
「何、何か用? 」
「うん、オレさあ」
「うん」
「ちょっと旅に出るー」
「は? 」
「俺がいなくて淋しくても泣いちゃダメだよー」
「誰が泣くかバカ」
「ひっどぉーい。アズサ泣いちゃーう」
「ちょっと気持ち悪い声出さないでよ」
「ん、ま、とにかく頑張ってくるからー。じゃーねー」
「何を? 」
と、聞いたときには、すでに回線が途切れていた。
なんだったんだ今のは。わけがわからない。
しばらく携帯を見つめて悩んでみるも、謎がとけるはずもなく。
こうなったら本格的に掃除でもしよう、と思いながら立ち上がる。
天気もいいし。
まずは掃除機をかけて、それからシンクでも磨こうと思いつつも、やっぱり頭の中ではどこか、さっきのことばの意味を考えていた。

何を頑張るんだろう?


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