そのちいさなおと(11.4)

「あれ、ララ? 何しとん? 」
どうやって声をかけたものかと迷っていた私に、アズサは何の気なしの話し掛けてきた。
それでもなんと言っていいかわからなくてて立ちつくしていると、アズサはくすりと笑って、
「なんかララ、迷子みたい」
と言った。
「迷子はあんたの方でしょう? 」
その言い方のあまりの普通っぽさに、私は悲しいような腹立たしいような気分になった。

彼は自分の置かれている状況がわかっているのだろうか?
それとも、行方不明だなんていって探し回った私たちが間違っていたのだろうか?

しかし、「えー」といってまだくすくす笑っているアズサの目が何も映していないように見えて。
やっぱり探し回ったことに間違いはなかったように思った。

誰かが見つけなければ、彼はいつまでもここでこうして笑っているような気がした。
それはすごく悲しいことだと思った。
でも、見つけたのが私じゃあ、どうしようもない。
すごく探したのに。
すごく会いたかったのに。
すごく好きなのに。
私にはどうすることもできない。
私がここにいても、やっぱり彼の目は誰も見ていなくて。
その目を見ていても、何もできない自分が、嫌で嫌で悲しくて仕方なくて。
「どうだっていいじゃん」
気が付いたら、口に出していた。
もう止まらなかった。
アズサの反応なんて、見たくもなかった。
「どれだけ好きだったかなんて知らないけど、もういいでしょ。結婚しましたって葉書、送るくらい、もうあっちはアズサのこと吹っ切ってるのに。あんたはいつまで引きずってるわけ? 」
そのうち目の前がかすんできたので、あわてて歯を食いしばる。
こういうところで泣くのは卑怯だと思ったから。
するとそのとき、アズサの声が聞こえた。
「いつまでだろうねえ」
その声を聞いた瞬間。
私の中で何かがぷつり、と音を立てた。
「もういいじゃん。もう、いいよ。おねがいだから。」
おねがいだから。もう、そんな顔しないで。
おねがいだから。

「私を、好きになってよ」

自分が何を言っているのかも、もうよくわからなかった。
もう顔を上げることすらできなかった。

「ごめん」

そして、しばらくの沈黙のあと、聞こえてきたのは予想通り、否定の意味の謝罪のことば。

顔を上げると、彼はもう一度、何か言ったようだった。
そのときはじめて、彼の目が私のことをちゃんと見たような気がしたのだけれど、もう何もかもわからなくなってしまって。

気が付いたらその場から走って逃げていた。

あぁ、なんだか安っぽいドラマみたいだな、と思った。
走りながらどんどん冷静になっていくのがわかる。
そして、冷静になった頭の中に、真っ先に浮かんだ実感は。

私はアズサにふられたのだという、何の質感もない実感だった。


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