そのちいさなおと(11.3)

アズサを探す、ということになったけれど。
悲しいことに心当たりは全くなかった。
まさか、と思って学校の中から探してみるものの、図書館にも教室にも食堂にも、やはりその姿はなかった。
あたりまえか、と思ってふと手元を見ると、さっき飯田君から奪い取ってしまった葉書をまだ握り締めていた。
そこで、さっきは全く目に入らなかった、男の人のほうが目にとまる。
写真だから実際のところはわからないけれど、優しそうな、安定感のありそうな人だった。
大人の男だな、と、思った。
そう思ったらなんだかすごく嫌な気分になってその葉書を破り捨てたい衝動に駆られたけど、よく考えたらそれは私のものじゃないということに気付いてあわてて鞄にしまいこんだ。
アズサのほうがずっといいじゃないか。
と思うのは惚れた欲目というものだろうか。
私はアズサであれば充分なんだ。
そんなことばが頭に浮かんでびっくりして。
あわてて首を振ってその考えをごまかした。

***


学校での捜索を早々に諦め、学校の最寄駅に行ってみることにした。
駅の周辺には、アズサとよくご飯を食べにいったり、飲みに行ったりするお店がたくさんある。
しかし、もしかしたらいるかもしれない、と、ファーストフードやファミレス、いろいろ見て回ったけれど、やっぱりアズサはどこにもいなかった。

アズサに恋をしていることに気付いた、あのお好み焼きやさんも念のため覗いてみたけど、やはりいるはずもなく。

どうしようかと途方にくれているところで、携帯がぶるぶるとふるえた。
取り上げてみるとそれは音からのメールだった。
飯田君からの伝言、と、アズサの家の住所が書かれている。
家には居なかったって言っていたけど、もう探す当てなんて全然なかったし、とりあえず行ってみるか、と思ったところでもう一度メールの着信。
「頑張ってね」というかわいい幼なじみのことばにどこまで答えられるかはわからなかったけれど、ちょっとだけ元気を取り戻して、その住所の指し示す方向へ向かって歩き出した。

***


アズサの家は、私の家とは学校をはさんでちょうど反対側にあった。
住宅街の中にあるこぢんまりとしたアパート。
その二階のまんなかのドアに、申し訳なさそうに<市原>と書いた表札がかかっていた。

とりあえず、呼び鈴を鳴らす。
反応なし。
そりゃあそうだろう。
今朝飯田君が確かめたんだから。
とは思いつつも、ドアの取っ手を回してみた。
一応、鍵はかかっていた。

やっぱり、家に戻っているということもないらしい。
一体彼はどこに行ってしまったんだろう。

とにかくもう手がかりなんて何にもなくて、そう思ったら随分歩き回った疲れがどっと出てきてしまった。

ちょっと休もう、と思ってあたりを見渡すと、目の前にちいさな公園があった。
あぁ、あそこで休もうと思ってよく見てみると、ブランコのあたりに人影がちらりと見えた気がした。

もしや、まさかと思って駆けていったその公園のブランコの前の柵に座っていたのは、間違いなくアズサだった。


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