四月(14)

四月十七日。
ということで。

きのうの午後四時からの剣道部の稽古はややハードで、割と真面目な部活であることが判明した。
稽古は週に三回。大会前は増えたり合宿したりするらしい。
アズサが貸してほしかったのはキャロルキングのつづれおりで、適当に選んで持って行ったものが正解だった。
そして有沢さんはと言えば。
朝学校の最寄り駅でばったり会ったと思った瞬間に向こうからやってきた友達にばーっと引っ張られて挨拶する間もなく終わって、そのあと一度も会えず仕舞い。
そして今日。
電車に乗るために駅のホームの階段を登り終えるといちばんに視界に入ってくるところに、彼女が立っていた。
「あ」
と思わず呟くと、その声に線路の方を向いていた有沢さんが振り返る。
「あ」
そして俺を見て、ちょっとびっくりしたような声を上げた。
そしてちょっと気まずそうな顔。
「おはよう」
でも今更声を掛けないなんて不自然だし、と思って無難に朝の挨拶をする。
「あ、おはよう」
すると有沢さんはほっとしたように笑った。
「今日、1限から?」
「うんそう。飯田君も?」
「うん」
「そっか。…あ、風邪はもう大丈夫?」
「ああ、もう平気」
「そう?よかった」
にこにこ。
笑ってる彼女を見ながら、このまま無難な会話をしておくべきなんだろうな、と頭では思ってるのに、
「有沢さんって今彼氏いる?」
と、何故か彼女に対して全く歯止めがきかないらしい口が勝手に余計なことを言う。
「は?」
そりゃもちろん「は?」だよな、と思いつつも、さらにこの口は彼女に追い撃ちをかける。
「好きなひとは?」
「え」
「いる?」
「いな、いけど」
困惑。
有沢さんはまさにそんな表情。
「俺、なれる?」
「はい?」
「有沢さんの好きな人になれる?」
「え、そんなのわかんない」
「じゃ、なるから」
「え、だ、ごめんなさい飯田君好きだけどそんな風に見られな、」
「じゃ、見て」
「え、ええー」
なにそれ、って感じで彼女はこっちを見上げたりうつむいたりあたふたしてる。
かわいい。
なんて思っていたら、ホームに電車が滑り込んで来た。有沢さんはそれを見てもまだ少し困惑気味。
「俺、女の子好きになったの初めてだから加減がわからんけど」
目の前で開いたドアから電車に乗り込むと、ホームで呆然としてる彼女の腕を引く。
「やりすぎだったら言って」
乗り込んだと同時に閉まったドアの音に紛れさせて言ったら、
「もうさっそくやりすぎです!」
って怒られた。
かわい。


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