四月(15)

四月十九日。
夕方、アズサから呼び出しの電話。

「んでどうなん」
「どうってなにが」
呼び出された先はアズサのバイト先。つまり、エイプリル。
月曜夜は暇なのか、店番はアズサ一人で、鈴さんは奥でお仕事中らしい。
「ストーカー生活三日目はどないやねんて言うてんの」
アズサがいれてくれたコーヒーを飲みながらあさって提出するレポートのことをぼんやり考えていた俺は、アズサの発言に口に含んでいたコーヒーを吹きそうになる。
「な、は!?ストーカー?!」
「あれやろ?「俺お前の好きなひとになるから」って詰め寄ってんやろ?」
「え、何で知って」
「えーなになに、そんな面白い展開になってるのー?」
俺が出した大声に反応したのか、奥から鈴さんがウキウキ顔でやって来て、俺はますますテンパって「は。いや、なってないっすよ」とか言いながら一度口元まで運んだカップに口をつけずにソーサーに戻してしまった。
その動作を見たカウンター向こうの二人は手を叩いて「わートモ、テンパり大王やあー!」とか言いながら大笑い。
お前ら、ほかのお客様にご迷惑だろ、と思ってまわりを見渡してみたけど、いつのまにか俺以外は誰もいなくなっていた。
「も、帰る」
何のための呼び出しだよまったく、と思いつつ立ち上がると、爆笑していた二人はごめんごめんと俺を引き止めた。のこったケーキあげるから、とか言って。
「そもそも何の用?」
「ん、トモ来週26日って空いてない?」
「26?」
「おん、その日からクラス合宿があるんやんか、オレ」
「ふーん」
「だからちょっと、バイトどうかと思って」
「バイト?」
「平日なんだけど、わたしその日までの仕事があって店に出られるか微妙だから人手が欲しいのね」
アズサの言葉に首を傾げると、そのあとを引き継ぐように鈴さんが言う。
「俺、そんな役に立たないと思いますけど」
接客経験なんて殆どないし。もっといい人がいるんじゃないですか?と言外に言ってみたけど、なぜか鈴さんは譲らなかった。
「大丈夫、もう一人頼んであるから、主にお皿洗ったりとかで全然」
「じゃ、むしろいらなくないっすか?」
「いる。そこはいるのよ。男なんだから四の五の言ってないで「はい」って言いなさい!」
「ええー、なんでそんな強引なんすか」
「俺を好きになれ!とか強引に迫った男が言えた義理?」
う。
「それは」
「はい、お返事は?」
「……はい」
なんだ、この強引に押し切られた感。
俺はおとといの朝の自分の行動をちょっと反省した。やりすぎでしたごめんなさい、と心の中で有沢さんに謝罪。
「まあ、お給料弾むから」
「はあ」
「楽しみにしてて」
「はい」
曖昧に返事をすると、妙に意味深な笑顔で鈴さんは奥へ戻って行った。
何だ?
と思ったら戻って来て、
「あっ、アズサ君もう上がっていいよー。悪いけど看板だけ閉店にしていって」
と言い残して再び奥へ引っ込んでいった。
「あ、トモ途中まで一緒帰ろ」
「ん、あのさあ」
「なん?」
「何か企んでないよな?」
「はあ?なに言うてんの、いややなもー」
けらけら笑いながらドアに閉店しましたの札を掛けるアズサは「そうだ、部屋寄って行っていい?」とか言ってもうこれ以上の質問を受け付けないよ、という雰囲気を醸し出していて何となく不安になった。

ところで、鈴さんの笑った顔ってどこかで見たことある気がするんだよなあ。


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