四月(13)

四月十六日。
朝から携帯に電話。

「あっ、飯田?俺、設楽。ごめんな朝に。具合いどう?今日の稽古、こられそう?」
寝ぼけたまま通話ボタンを押すと、聞こえたのは男前な先輩の声。
「あ、おはよーございます。行けます、すいませんあのあと」
「いや、いーって。雨にうたれたんだってー?青春系?」
「青春系?って」
「だってただならぬ事態じゃん、風邪ひくほど雨に打たれるとか。俺もやったことあるけどさー」けらけら笑いながら、声まで男前な設楽さんは言う。「もうあんなこと二度としたくないなー」って。
俺はそれにはあ、とか曖昧に返事しつつ、あんたのせいだよ、とちょっと最低な思考に陥ったりしていた。ら、
「もしかしてさあ、音のこと?」
っていう呑気な声が受話器の向こうから聞こえてきて、それまで「はあ、はあ」って微妙な相槌を打っていた俺の声が「はあ?!」ってちょっと裏返る。
「はは、わかりやすいなーお前」
「は、何言ってるんすか!」
「それで雨に打たれちゃったわけだねー、若いね」
「大して年変わらないじゃないですか」
「音は、そーいうんじゃないよ?俺の」
「そー、いう、って」
「家族みたいなもんだけど、彼女とかじゃないって意味」
「は、はあ?」
「あの子、結構難しいとこあると思うけど頑張れよー」
「な、え?」
「んじゃ今日稽古四時からだから。遅れんなよー」
「は、え」
と、俺の言葉にならない声を拾うことなく設楽さんからの電話は切れた。 えーと、今日の稽古は四時からで、雨に打たれるのは青春で、俺はもう二度とやりたくなくて、音は俺のそーいうんじゃないよ?
は?
と、頭の中をハテナでいっぱいにしていたら、またしても携帯に着信。
「おーおはよートモ。あんさー、キャロルキングのCD貸してー」
「音はそーいうんじゃないって言われたんだけど」
相手がアズサとわかった瞬間に混乱した口が勝手に喋りだす。
「は?どしたんお前」
「設楽さんに。そしたら俺、雨に打たれて風邪引いた意味なし?」
「何言ってるんだかよーわからんけど、設楽さんて4年の?」
「そう4年の」
「あの人の彼女、有沢さんちゃうよ」
「は?なんで知ってんのお前」
「それは言われへん。守秘義務」
「なにそれ」
意味わからん、って呟いたら、まあそれはお互いさまやろ、ってアズサは電話口で笑う。
こいつも声めっちゃ男前。抜けた喋り方するくせに。
「まあとにかくキャロルキング貸してやあー。昼休みにまた連絡するし」
「キャロルキングのな、」
どのCDだ、と聞こうとしたところで電話は切れた。
あんまりその切れ方が設楽さんのときと似ていて、モテる男ってみんなこんなか?と今はどことも繋がらない携帯を見つめつつ首を傾げる。
時刻現在午前八時三十分。二限からだからそろそろ学校に行く支度を始めないといけない。
とりあえず持って行くものはキャロルキングのCDで、
稽古は午後の四時からで、
有沢さんは設楽さんの彼女ではないらしい。


back * next

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送