賞味期限は側面に表記
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ふとしたときに思い出すことに、気付いていた。
たとえば彼の好きな音楽が流れたとき。
たとえば彼と話した本を発見したとき。
たとえば彼のバイト先の店の前を通るとき。
彼のことを思い出すことに、気付いていた。
そのことについて深い感慨はない。
むしろ、あんまりいい感じはしない。
思い出しても。
だからなんなんだろうと。
思ってしまう自分が嫌で。
彼の好きな音楽が聞こえないように。
彼と話したことを思い出さないように。
彼のいそうなところには近寄らないように。
何故か必死になった。
そうすれば自然と思い出さなくなるはず。
彼とは学校も違うし。
きっと賞味期限も知らないうちに過ぎてしまうはず。
最近は会う機会もメールの数も減ってきたから。
この波を乗り切って。
彼とはこのまま仲良しの友達でいようと思った。
賞味期限を見つけられないうちに切らしてしまえ、と、思った。
だけどそう思いながら、
この気持ちの賞味期限がどこにあるのか、必死に探していた。
つづく
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