悩むに決まってるじゃないか。 七瀬フユカに会ったのは、きっと今日が初めてだ。 初めてだけどなんとなく、なんとなく気になるかもしれないのは何故だろう。
選択の美術。 油絵の具で風景画。 天野と並んで、中庭の大木を描く。 学校の中に人がたくさん詰まっているなんて信じられないくらい、静か。 音の、ない空間。 「大沼ってホント、何でもできるのな」 と思ったら天野の声がして、俺は世界に音があったことを思い出す。 「なんだよ突然」 「絵。うますぎ」 「これ?」 「そう。勉強もスポオツも万能なのに、何で絵までうまいわけ?」 「…圧倒的に苦手なものがあるからじゃねーの?」 緑の絵の具を混ぜながら溜息交じりに言ってやると、天野はふと絶句した。 また世界は音を失う。 しばらくして搾り出すように「何?」と天野が聞くので、「お前がトクイなことだよ」、と答える。 どうでもいいけど、天野の筆はさっきからこれっぽちも進んでいない。 「天野」 「んあ?」 「お前は何で一ノ瀬が好きなんだ?」 「なんでって」 「俺はそれがよくわからん」 「大沼?」 「誰かを好きになるっていうのがよくわからん」 「ちょっと」 「あんなに欲しがる気持ちがわからん」 厚く色を塗りつけた木の幹から伸ばした枝に、もうほとんどついていない緑の葉を一枚一枚丁寧に描き入れながら、俺は天野に淡々と疑問を投げつけた。 思っていたことを全部言い終え、緑も全部塗り終わると、ちょうど終業のチャイムが鳴った。 しまった。 天野の居残りが決定してしまった。 あちゃー、と思って天野のほうを見ると、いつになく真剣な顔。 「おまえ、やっぱり一ノ瀬のこと好きだったんじゃないの?」 「…違う。お前みたいに叫びたくなんてならなかった」 「遠慮すると怒るけど」 「遠慮なんかしてない。本当に、ただ、わからないだけで」 真剣な顔の天野を見ながら、あぁ、美術室に一回戻るようにって先生言ってたよなー、とか考えている自分に腹が立つ。 「お前、色々溜め込みすぎなんだよ」 「やめられないんだよ」 それは自分でもわかってる。 やめたいのにやめられない自分に、腹が立つ。 NOVEL TOP gift top |
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