結局きのう、ふとんの中で悩みつつ。 まったく思い出せなくて。 次気付いたら朝だった。 どうやら眠ってしまったらしい。
6時に目が覚めるのは、中学生の頃からの習慣。 起きたら体の筋を伸ばして、筋トレ3セット。 その後再び柔軟体操。 地味にやらないと落ち着かない。 すべてを終えて着替え、適当に朝食を済ませると、家中の女たちを起こさないように家を出る。 起こしたらあとが怖い。 朝の町を自転車で走りながら、やっぱり剣道部のナナセが思い出せなくて俺は焦っていた。 物覚えは悪い方じゃない。 なのになんで、一ノ瀬が俺の好きな人に違いない、と言った人の顔が思い出せないんだろう。 と思っているうちに学校に到着。 あまりにも気になったので、剣道場を覗いてみることにする。 ある意味、誰かをこんなに気にしたのは初めてな気がする。 しかし剣道場を覗いてみたが、そこはモヌケノカラだった。 そりゃあそうだ。 サッカー部の朝練開始時間は他の部より30分早いし。 それよりさらに30分、早いし。 大体、すべての部活で朝練習があるわけじゃない。 なんか思いつめてたなぁ、と踵を返してグラウンドへ向かおうとすると、 「大沼君?」 と、誰かの呼ぶ声がした。 振り返りながら、何故か確信する。 この声の主が、ナナセに違いない。 「どうしたの? 剣道場に、何か用?」 振り向いても何も言わない俺を変に思ったのだろう、声の主は首を傾げて言う。 その仕草に、何故かどきりとした。 「大沼君?」 「あ、ごめん、朝稽古、だよね」 「うん」 「俺も朝練。それじゃあ」 「大沼君? 何か用事があったんじゃないの? 忘れ物?」 「いや、ちょっと確かめたかっただけ」 「何を」 「七瀬さん、下の名前は?」 「え?」 「下の名前」 「フユカ」 「ありがとう」 あっけにとられている彼女にお礼を言って、グラウンドへと急ぐ。 七瀬、フユカ。 「大沼君」 朝練が終わって教室に戻ると、一ノ瀬が中から顔を出した。 俺の隣に天野を見つけて嬉しそうに手を振ってから、 「七瀬さんが来てるよー」 と言う。 俺は柄にもなく、かなりあわてた。 「えっ、なんで」 「忘れ物」 ちょっと声が掠れてしまった、なんて思っていたら、扉の中からすいっと七瀬フユカが現れた。 「これ、大沼君のでしょう?」 「あ、あぁ、そう」 いつの間に落としたのか。 それは写真面を上に差し出された、俺の生徒手帳だった。 「なんかこの大沼君」 七瀬フユカはふと言った。 「何かを我慢している顔をしてる」 「え?」 「なんで?」 「さあ」 そのことばに、なんかドキリとしたけど。 なんでかなんてわからない。 何を我慢してるかなんて、自分でもよくわからない。 「そう。ごめんね。私のカンチガイかも。気にしないで私、たまに変なこと言うんだ。ああごめん、そんな、悩まないで」 急に黙り込んでしまった俺に慌てた彼女の、朝練の前のときとは違うくるくる変わる表情を眺めていたらチャイムが鳴った。 その音に七瀬フユカはあっ、と小さく言って、それじゃあホントに気にしないでね、と踵を返して走り去ろうとした。 その後姿に、気付いたら声をかけていた。 「あ、七瀬さん」 「なに?」 「今日放課後、稽古見に行ってもいい?」 NOVEL TOP gift top |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||