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水上君は、関西人ステレオタイプみたいな人だ。
ボケたがり、突っ込みたがり、なんでもオチを付けたがり。
商店街では絶対値切るし、部屋にはきっちりたこ焼き器があるし。
声も大きいし、ナンパ性だし。
最近ナンパ性はだいぶましになってきたけど。
というわけでもちろん、例の発酵食品もキライなわけです。
「ただいまー。ナノカー、ハラヘッター」
部屋でギター抱えてぽろぽろ音で遊んでいたら、玄関のドアが開いて水上君が帰ってきた。
甘えるときだけ名前で呼びやがって。
「ゴハン炊けてるから勝手に食べれば」
ちょっと冷たくあしらってあげたら、えー、ナノカちゃんのケチー、とか言ってる。
ナノカちゃんって。
気色悪いな。
「あ、そうだ! 冷蔵庫に水上君の大ーー好きなアレ、入ってるから」
ついちょっといじめてあげたくなって言うと、「え、何何?」とか言いながら水上君はうれしそうに 冷蔵庫を開けた。
「おー、この白くて小さ目の四角いパックは僕の大好きな納豆さんじゃないですかー。うれしいなーって、 なんでやねん!!」
おぉ。ノリツッコミ。
思わず拍手したら、水上君はこっちに向かって突進してきた。
慌ててギターを脇に寄せたところでそのままベッドに押し倒される。
「お前、俺のことバカにしとるやろ」
「してない、してない」
「腹減ってんねん。食うぞコラァ!」
「ぎゃーゴメンなさいって!!」
おなかすいてるからってそんなにキレなくてもいいのに。
「食うぞコラァ!」って、彼女の上に乗っかって言うセリフかぁ?
…言うセリフかぁ。
とにかく何とか野獣と化した水上君をなだめると、仕方なく立ち上がってキッチンに行き、冷蔵庫を開ける。
冷蔵庫の中身は牛乳、タマゴ、キムチ、納豆、豚肉、チーズ、にんじん、キャベツ。
そこからタマゴとキムチと豚肉とキャベツを出す。
水上君はさっき私が投げつけたクッションを抱えてぼんやりテレビを見ている。
カワイイな。
と、思いながらボウルに卵を割ってかきまぜて、そこに炊けているご飯を入れて混ぜる。
フライパンにサラダ油を熱して、軽く塩コショウした豚肉を入れて、炒めて、キムチと刻んだキャベツを入れて、 炒めて、タマゴをまぶしたご飯を入れて、炒めて、しょうゆをちょっと入れて炒めて、 お皿に盛ろうとしたところで背後に水上君が立ってることに気付いた。
「え、いつからいたの?」
「お前、あいかわらず手際がエエよな」
「別にフツーでしょ? 水上君も料理上手じゃん」
「まあな」
「否定しようよ」
ため息をつきつつフライパンの中のキムチチャーハンをお皿に盛ると、水上君の目がきらきらした。
こういうとこ、コドモみたいだよなぁ。
冷蔵庫からお水を出してコップに注いで、チャーハンのお皿と一緒にテーブルに運ぶ。
「ハイどうぞ」
「いただきます」
水上君は顔の前で手を合わせて、頭を下げる。
こういうところちゃんとしてるのはすごく好きだ。
ご飯を一緒においしく食べられるというのはやはり男女の中で考えたらかなり重要なウエイトだろう。
「ねえ、なんで納豆キライなの?」
そう思ったらふと、冷蔵庫の中の納豆が思い浮かんでなんとなく尋ねた。
「ん? あないなもん人間の食いモンちゃうな」
「えーなんでよー。おいしいのにー」
「ニオイがダメやねん。あと色。キショイ」
「私は好きだけどなー」
「しゃあないやん。さすがの俺でもお前が好きなもののすべてを好きにはなれないんやで」
「なにその、さすがの俺でもって」
と、聞いたら水上君は「しまった」みたいな顔で鼻の頭を掻いた。
あ、照れている。耳も赤いし。
しばらくじーっと見つめてみたけど何も言わなかったので、諦めて空になったコップにに水を足してあげた。×××

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