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大阪にやって来ました。

夏休みになって、私がまず実家に帰省して、してる間に水上君が大阪に帰ってしまっていて。
まあ予定は聞いていたんだけど。
それでひとり暮らしの部屋で暑ーい、とか言いながら2日くらいボーっとしてたら 水上君から電話があった。
『おう、お前もう戻っとるん?』
「うん」
『俺あと一週間くらいおるんやけど』
「あっそう」
げげげ、そんなに長期かよ。
と思ったら意外な申し出。
『ヒマやったら、こっち来ぉへん?』
―――というわけでお言葉に甘えて大阪上陸。
学割で新幹線に乗って、ただいま新大阪。
着く時間を伝えてくれれば迎えに行く、って言ってたんだけどなぁ。 
と思って駅から出てあたりを見回すと、ちょうど向こうからやってきたのが水上君だった。
目が合ったらにやっと笑われた。
「お前、ホンマに来たんやなぁ」
「なんでそういうこと言うの。来いって言ったじゃん!」
水上君は私の持っていたカバンをさりげなく持ってくれる、という高等なフェミニスト技を使いつつ、 暴言を吐く。
『来ぉへん?』とか言われたの、けっこう嬉しかったのに。
付き合って3年目にしてついに、みたいな。
「ハハ、嘘やって」
って言いながら駐車場に止まっていたちっちゃくてかわいい車の後部座席を開けて私のカバンを そこに投げ入れて、助手席のドアを開けてくれた。
なんだなんだ。この流れるようなフェミニスト技の連続は。
そもそもこの車って何。
「どうしたん? 乗り?」
胡散臭そうに見てたんだろう、水上君は首を傾げた。
そうだよね、よその車に荷物を積むわけがない。
「あ、は、はい」
あわてて車に乗り込むと、反対側から水上君が運転席に乗り込んだ。
胸ポケットからキーを出してエンジンを掛けて、ギアをぐぐっと入れて、車はすいっと発進した。
「水上君、車乗るんだね」
「まぁ乗るやろ」
「好き? クルマ」
「まぁな」
やばいです。
運転してる姿がかっこよすぎて直視できません。
たまにサイドミラーとかバックミラーとかちらって見るのがすごくかっこいい。どうしよう。
と思ったら水上君が隣でぷって吹き出した。
「え、な、何?」
「おまえ、目ぇ泳いでるで?」
「はっ?」
言いながらよっぽど可笑しかったのか、声を上げて笑い始めた。
もうひとつ言わせてもらっていいですか。
この車小さくて、運転席と助手席が近すぎですって。
「わ、笑うなよー」
「ええやん面白いんやから」
「私のことバカだと思ってるでしょ!」
「思ってへんで?」
赤信号で止まったかと思ったらこっちを覗き込んで。
「アホやと思っとる」
って言ってにやっと笑った。
くそう、やっぱり近すぎる。
しかもなんだかんだで会うの、1週間以上ぶりとかだし。
「今日友達の家に泊まるんやったっけ?」
「うん。なんか地元に全然帰ってこなくて全然会ってないから久し振りに」
「ほーん」
「なに? ご不満?」
「べつに」
そんな不満顔でべつにって言われても。
「どっか行きたいとこあるか?」
「え、べつにないけど」
電話貰ってから舞い上がってすぐに切符買ってすぐにこっちに来ちゃったから研究とかも全然してない。
真っ先に頭に浮んだのはUSJだけど絶対言い終わる前に即却下されそうだしな。
まぁ暑いし私もそんなに行きたくないけど。
「ほな適当でええか」
「ええです」
答えると信号が青になって、水上君は前を向いて、横顔で「そぉか」って笑った。
あああ、これが噂の車マジックか!
困った、ホントに格好いい。
再び視線のやり場に困っていたら、ふと窓の外に目が行く。
あぁ、ここに逃げ場があった。
ふっと一息吐いて、窓ガラスに頭をくっつける。
初めて見る大阪の街が、車の走るスピードで流れていく。
しばらく眺めていたら、背後から声が掛かった。
気付いたらまた、車は赤信号で止まってた。
「そんなに物珍しいか?」
「だってはじめて来たよ」
「なにっ? この非国民め」
「えーなんでよー」
「おまえ分かってないなぁー」
「なにがぁ?」
「ええか? よお聞け。来年こそ大阪が首都になるはずや!!」
「はぁ?」
いきなり何言ってんの、と思って振り返ったらまた例の笑いを浮かべてる水上君。
「やっとこっち向いた」
そして、ありえないだろ、っていう甘いセリフ。
「実はおかんが大張り切りで昼飯用意してんねん。来るやろ?」
「……もちろんです」×××

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