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よぉ喋るくせに、肝心なことはいつも言わない。
目でものを言おうとすんねんな。
俺のことを俺様、俺様て言うけど、お前も大概やと思うで?
今日も、背後からやたらと視線を感じる。
「マサトー。助かったよ今日は! さんきぅー」
その視線を感じながらどうしたろかなー、て思っていたら、向こうからチューハイ片手に友人がやって来た。
だだっ広い部屋では今日のライブイベントの参加バンドや関係者ががやがや好き勝手に騒いでる。
「まったく、ライブ一週間前に骨折るな! ってハナシだよ」
「まったくやで」
「でもおかげで凄腕ベーシストがアシストで入ってくれたけど」
「別にスゴ腕ちゃうわ」
「ご謙遜を」
「ただの趣味やし」
笑いながらも、ずっと背後の視線が気になってる。
だから、なんで目でものを言おうとすんねんな。
待っとるだけやったら、何も始まらんで?
「ていうかマサト」
「ん?」
「あそこにいるのって田中ナノカちゃんじゃん」
「ん、あぁ」
「うれしー、おれ、ファンなんだよね」
「ファン? って、ライブ見に来たことあったっけ」
「ああ、俺路上時代。地元近いから。今はライブハウスで唄ってるんだっけ? どこか知ってんの?」
「俺のバイト先」
「うそ、じゃ知り合い?」
なんて会話してる隙に、田中のことを遠巻きに見とった男とか女とかがわらわら田中の周りに集まり出した。 妙に有名人やしな、アイツ。
「ていうか」
おいおい、と思って俺もそっちに向かったら、目が合って、ぷいっと視線を逸らされた。
なんやねんそれ。
「俺、帰るわ」
「えー、もっと飲んでけば?」
まったくお前の態度の悪さには呆れるで、ホンマに。
目だけでものを言おうとすんな、って言うとんねん。
「や、明日ガッコ、朝からやねん俺」
「そっか。じゃあ今日はアリガトな。またなんかあったらよろしく」
「おん」
テキトーに頷いて、壁に掛けたジャケットを手にして立ち上がった。
ついて来るのはわかってたから、振り返らんと、でもゆっくり店を出る。
案の定店を出てすぐに後ろからたたた、と控えめな足音が追いかけてきた。
「おまえなぁ」
その足音に、振り返らずに文句を言う。
「待っとるだけやったら何も始まらんで?」×××

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