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水上君の趣味のひとつに『釣り』がある。
読書家の音楽好きでインドア派かと思いきや、アウトドアも結構イケる方なのだ。
しかし、私はその「釣りをする水上将人」を一度も見たことがない。
いつもひとりで行っちゃうんだよね。私の気付かないうちに。
で、今日もまた行っちゃったらしいのです。
朝起きたらいなくなってて、テーブルの上に置き手紙。

〔たまにはええ空気吸わんとな〕

って。
なにその、この部屋の空気が悪いみたいな言い方は。
ベッドから起き上がって何に着替えようか考えつつその紙を横目で見ていると、部屋のドアが ガチャっと開いた。
「なんやおまえ、まだ着替えも終わってへんのか」
「え、なに水上君もう帰ってきたの」
「ちゃうやん。お前も行くんやで?」
「えええ!」
「今日はクルマ借りて来てん。下に停めてあるから急ぎ?」
「何でそういうこと早く言わないの!? 突然言われても」
「あーあーわかったわかった、そういうのぜーんぶ後で聞いたるから。な? こんなにいい天気 やねんで?」
確かにカーテンの外の空は高く青い。
絶好のアウトドア日和だけどさ。
もーう! なんて強引なの。強引過ぎる。
「わかったよ!」
大急ぎでクローゼットからジーンズとTシャツとパーカーを出して着る。
洗面台で顔を洗って鏡を覗き込んでみたら寝癖がついてたけど、どうせ誰も見ないということで 帽子をかぶってごまかして。
「お待たせ!」
って水上君の前に立ったら「おっ、上出来」とか言いながら頭にフードをかぶせられた。
「ちょっとなにすんの」
「ほら早よ行くで」
水上君は妙にご機嫌で、文句を言った私の手首を掴んで玄関のドアを開く。
「何でそんなにご機嫌なの?」
「んー? サプライズが見事成功したからやで」
この前の弁当の仕返しや、って振り返った水上君の目はいたずらっ子そのもので、彼は俺様なんじゃ なくて単にコドモなんじゃないかななんて思って笑ってしまった。

たまにはええ空気、って、もしかするとこの気分のことかも。×××

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