21


式場の外でタバコをふかす。
青い空に白い煙がのぼっていってすぐ消える。
妙に青い空。
秋の空は変わりやすいけど、晴れた日はどこまでも高いなあ、などと考える。
「今日はええ天気やなあ〜・・・」
すると隣で同じようにタバコを吹かしていた親父がしみじみ呟いた。
「よかったやん、雨より」
「せやけど父親としては複雑やで」
今日は28歳のアネキの結婚式である。
大学卒業後大阪の地元企業で働きつつ、こっちに出てきた彼氏と遠距離恋愛すること6年、 ついに仕事をやめて結婚してこっちに移って来ることになったのだ。
「あー、おとん、アネキ溺愛やったもんなぁ」
「いや、それだけちゃうわ」
「何ぃな?」
「あいつもこっち来てもーたやろ? オマエも多分大阪には帰って来ぉへんやろ。3人も子どもいてる のに淋しい話やで」
親父は短くなったタバコを携帯用灰皿に押し付けて、次のタバコに火をつけた。
その横顔から、ふたたび空へ視線を移す。
「今日はエエ天気やなあ〜・・・」
親父の真似をしてからタバコの煙を吐き出すと、「何真似してんねん」って突っ込まれた。
そこへもう式が始まりますよと声が掛かり、父子の会話はとりあえず終了した。

***

「おかえりー。どうだった結婚式」
「ええ天気やった」
「それは見たら分かるって」 
「オヤジが泣いた」
「わーやっぱり! 水上君のおとーさん泣きそうな感じだもんね。人情派」
「なんやそれ」
「でもよかったの? もっと親子水入らずして来たらよかったのに」
俺が無造作に脱ぎ捨てたスーツの上着とネクタイを拾ってハンガーにかけながら田中は言う。
「着替えに来てん。夕飯は一緒に食う」
「あ、そう。そうだよねやっぱり。せっかく大阪から来たんだもん」
「それと」
「ん?」
「オマエも一緒やで」
「なにが?」
「夕飯」
「え、水入らずの邪魔しちゃ悪いからいいよ」
ジーンズに履き替えつつ投げたパンツも折り目に沿ってきれいにハンガーに掛けながら田中は 困惑顔。
「連れて来い、言われてん。来るやろ?」
「うわあ、何その高圧的な言い方」
「来ぇへんの?」
「行きますよ」
そう言って田中は照れたように笑った。
その表情にふと、今日嫁に行ったアネキの表情が重なった。×××

next : number22
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送