20


私のベッドを我が物顔で占拠している水上君。
なにやらこのところ、また友達のバンドのサポートをしているらしい。
今日もベース持って帰ってきたし。
そのベースと水上君を交互に眺めながら、この部屋に馴染みすぎてることに苦笑い。
もう一年近くあっち行ったりこっち言ったりしてるんだから当然か。
もうすぐ水上君の誕生日。
今年は何をあげようかな、と思いながら、去年のことを思い出す。
テーブルの上に無造作に置かれた水上君20歳の誕生日プレゼント。

正式にお付き合いし始めて半年以上が経ち、その頃私と水上君はまたしても秒読み段階だった。
ということで私は、誕生日プレゼントについてかなり考えすぎていて、考えすぎだし! って 方々から突っ込みを入れられ放題だった。
付き合い始めてからすぐに来た私の誕生日に水上君がくれたのはギターのストラップ。
そしてホワイトデーにはピンキーリングをくれた。
私はバレンタインの生チョコ以来、何にもあげていなかった。
ホワイトデーに何かあげようとしたら笑顔で却下されたし。
そんなわけでかなり思い悩んでいた私だけど、実は何をあげたらいいかで悩んでいたのではなくて、 「本当にそんなものあげていいのか」で悩んでいたのである。
女の方からそんなもの渡して、本気でドン引きされたらどうしよう。
嫌われるかも。
と思っていたのだけれど、まぁ、あげたかったわけである。
だから仕方ない。
そして迎えた誕生日当日。
近所の小洒落たレストランでごはんを食べ終わってから渡したプレゼントに絶句されて、 『ああやっぱダメだった』って後悔してちょっと涙目になってしまったりしたなあ。
なんて、テーブルの上の去年のプレゼントを人差し指でくるくる回しながら笑う。
そしたら背後で水上君がもぞもぞ寝返りをうった。
いつもの意志の強そうな目が閉じられてしまうと、子どものようにかわいらしい。
水上君のこんな顔を見られるようになって、もうすぐ一年が経つ。

涙目になってる私に気付いて水上君は慌てて有難う、って呟いた。それから
「せやけどええんか?」
って焦ったみたいに言うから「わかんない」って答えたら苦笑された。
「なんやねんそれ」
「だってそれしか思いつかなかったんだもん」
「はあ、それはそれは」
「なんだよう」
「いや、光栄ですわ」
そう言って笑った水上君は、心臓壊れそうになるくらい格好良かった。

「オマエ、何考えてるん?」
合鍵のついたキーホルダーをくるくる回したまま ちょっと思い出に浸っていたら、目を覚ました水上君があくびをしながら覗き込んできた。
「んー、水上君の今年の誕生日プレゼント、どうしようかなーと思って」
「あー。俺もうすぐ誕生日か?」
「えー何忘れてたの?」
手のひらで目をこすりながら起き上がり、ベッドから降りてキッチンに向かう水上君。
コップに水を汲んで戻ってきて私の向かい側に座ってテレビをつける。
やっぱり馴染んでる。この部屋に。
「なにかほしいものある?」
「べつにないわー」
「どっか行きたいとこはー?」
「べつにないなぁー」
「ちょっと、ちゃんと考えてる?」
「んあー」
考えてない。明らかにスポーツニュースに夢中だ。
「水上くーん!」
「ええやんべつに。ここで普通にメシ食って、普通でええで俺」
「えーつまんないじゃん」
「俺がええって言うたらそれでええねん」
「ちぇー」
なんて言いつつもにやけてる私の顔。
見られたらからかわれそうだったから、今度は私がベッドに横になった。×××

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