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「水上君のバカ! キライ! だいきらい! もう二度と来んな!」
あいかわらず、私の俺様彼氏は俺様であります。

ケンカのきっかけはものすごくくだらないことだった。
思い返してみても、誰にも相談できないくらい下らない内容だ。
お風呂に入りながらまた思い出して、下らないと思いながらもやっぱり腹立たしい。
だって、普通するか?
一旦自分の家に帰ったくせに、結局またこっちに戻ってきて、人がお風呂に入ってる隙に、 冷蔵庫の中のプリン、勝手に食べるか?
だって、それ買うところ見てたじゃん。
デパ地下で並んで買ってるとこ、見てたじゃん。
限定50個の、最後の一個だったのに。最後の一個だったのに私30分も並んだのに!
その間、自分は休憩コーナーでまったりしてるだけだったくせに、『なんか甘かったで』とか微妙な コメントしか出来ないくせになんであっさり食べちゃうわけ。
大体、プリンなんだから甘いに決まってるだろ!
思いやりに欠けるよほんと、ホントそういうとこ俺様。
腹立つ!
思わずシャワーから出てくるお湯にパンチを食らわす。
何の手ごたえもなくてヘコむ。
何より腹立つのが、ああ言って追い返してからもう一週間以上、ホントにうちに来ないところ。
なんでそういう解釈になっちゃうのか謎だ。
理想としては次の日とかに『ゴメンこれきのうのプリン』て、あのプリン買ってドアを開けた途端に 頭下げてくれるのが良かったのに。
まぁ、それは水上君だからムリだってわかってるけどさ。
それにしたって。
いつもの俺様な態度で3日後くらいに『いい加減機嫌直ったか?』って押しかけてくればいいじゃん。
アホか。
「水上将人のばーか。きらいだおまえなんかー」
「おまえ、言うてええことと悪いことあんで?」
苛々しながらお風呂から出てキッチンの水道の蛇口をひねると、部屋のほうから声が聞こえて固まった 。
ぎぎぎ、と部屋の方を向いたら、あの日の再現映像みたいに水上君が何食わぬ顔で座っている。
「大阪の人間にバカとか言うたらあかんやん。へこむやん」
「は?」
「愛がないねん。バカって言葉には愛がない」
なに、それ。
「・・・・・・アホらし」
何言ってるんだコイツ、と思った。
久し振りに会った、怒ってる彼女に言う最初のセリフがそれってどうなの。
他になんか言うことはないのかよ。
と思ったら苛々してたことを思い出して、その気分のまま荒々しく冷蔵庫を開ると目に入って きた、なにやら見慣れない白い箱。
無言で取り出して開いてみたら、例の、プリンが、ぎっちり入っていて絶句する。
思わずもとどおりに箱に蓋をして冷蔵庫に戻してそのまま冷蔵庫の扉を閉めて、 もう一度開けてまた閉めてしまった。
そしてもう一度部屋の方を見る。
え、これ、水上将人君ですよね?
「お前、なにひとりコントやってんねん。おもんなんで」
「お、お前はだれだぁ!」
「だから、おもんないからコント止めって」
「だ、だって水上君がプリン買って謝りに来るとかありえないもん」
「おまえ、そういうことを言うな。これでもちょっとは反省したんやで」
「嘘やん」
「何で関西弁やねん」
水上君、苦笑いしながらこっちに近寄ってきてますけど。
え、ええ! なんでそんな顔してるんだ!
「言うてええことと悪いことあんで?」
「はぃ?」
「大嫌い、とか言うなや。へこむやん」
こ、これ本当に水上君?
へこまないだろ、そんなことで。
確かにちょっとあの時はプツッと切れてしまってたから言い過ぎたとは思うけど。
「お前は誰、だ?」
「ナノカ大好き水上将人君やで」
冷蔵庫に向かって立っている私の真後ろに立って耳もとで言われて、へなへなと床に座り込んで しまった。
「お、どないしたん」
何食わぬ顔して訊くなよそういうことを。
不意打ち、卑怯! 卑怯だ!
悔しいから下から睨みつけてさっきの彼の真似して言ってやった。
「言うてええことと悪いことあんで!」×××

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