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ところで田中は関西弁大好きオンナである。
俺のことも、関西弁やから好きなんと違うか? ていうくらい、関西弁に弱い。

寝込み始めて一週間。
やっと本調子に戻った田中は「映画見に行こうよ」と駄々をこね始めた。
最初は無視しててんけどあまりにもしつこく言うて来るからいい加減鬱陶しくなってきて仕方なく 近所の映画館に行って、今は帰りのファミレス、という状況。
田中はうっとりしながら映画について語ってる。
「いやぁー、やっぱり良かったわー。トヨエツー!」
田中は意外と趣味が渋い。
好きな俳優はトヨエツ、小林かおる。
「やっぱナチュラルだし関西弁! 関西弁だと余計かっこいい。あーかっこいいー!」
目の前のパスタにフォークをつきたててぐるぐる回してるけど回しすぎで全体がひとつの物体 になってきてる。
「田中、ひとつになってるで?」
「ん? 何が?」
「それ」
指差すと田中はああ本当だ、とか言いながらフォークをいったん真上に持ち上げ、 再びフォークを入れてくるくる回して持ち上げて口に運ぶ。
その様子を見て俺も目の前のとんかつを箸でつかんだ。
「ていうか水上君ちゃんと見てた?」
「見てたで?」
「ホントにぃー?なんか終始興味なさげだったじゃん。話わかった?」
話わかった? もなにも、俺原作読んだことあんねんもん。
何も答えずにとんかつを口に入れてごはんをかきこむと田中は不服そうな顔でこっちをじーっと見る。
「なんやねん」
「別になんにも!」
「お前、いつも言うてるやろ、目だけでモノを言おうとすな」
「うるさいやい!」
小学生並みの反論を口にすると、田中はドリンクグラスを勢いよく掴んで立ち上がり飲み物を 取りに行こうとする。
その怒った背中に「あ、俺コーラ」て言うたら、振り返って「イーっ!」ってされた。
オマエ今何歳やねん田中。
そう思いながら味噌汁を啜っていたら「おまたせしましたー」って愛想のない声。
汁椀を下ろすと目の前に気泡の浮いた茶色い液体。
向かい側を見ると田中はアイスティーにシロップを入れていた。
「あ、どうも」
一応言ってみたらものすごい笑顔で「どういたしましてー」と返ってきた。
……なんや、悪いモンでも入ってるんか?
と思ったが、ビビってんのがばれるんも癪やしと、グラスを持ってぐいっと一口。
「うえ」
「へっへーん。騙されたぁー」
炭酸入りアイスコーヒーやんけ。
なんでこういう子供っぽいことを本気でやるんや。アホか!
グラスを置いてじろ、と睨んでやったけど向こうも『負けん!』て目で見てきて思わず笑ってしまった。
なんでコイツはこんなにアホカワイイんやろ。
こういうところに来るのが久し振りやから忘れてたわ。
「オマエなあ」
「なんだようっ」
「ゴメンナサイは?」
「言わないもん」
「言うたらトヨエツの物真似したる」
「ゴメンナサイ」
お前、あいかわらず受け答えがお笑い芸人みやいやな。
実は関西人なんやないか?
めっちゃウキウキした顔で前のめりにこっちを見てくるから、俺もちょっと前のめりになって言うたった。
映画見ながら、コイツが泣きそうになってたセリフ。
「『何も悪ない。お前は何も悪ないんや…』」
「うおっ」
「なんや!」
「似てない…」
そのことばに俺ががく、とヨシモトばりのコケを披露すると、田中ははははと笑った。
何で二人でコントやってんねん。どこまで本気なん? と思ったら田中がとんだびっくり発言をした。
「水上君のがかっこよかった」×××

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