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ベタベタな恋のうたをつくってやろうと思い付いた。
きのう思い付いたフレーズが我ながらかわいくて切ない系だったからだ。
なんであんなフレーズを思い付いたかって、そんなのは考えるまでもない。
水上君とケンカをしたからだ。
多分今までで最大のケンカ。

先日水上君の部屋で水上君が生姜焼きを作ってくれるのを待ってるとき、水上君のベッドの上の たくさんのテキストに紛れた見慣れない紙の束が目に入った。
何気なくそれを手にとって見てみると、なんか台本だった。
作者の名前にどことなく覚えがあって、考えてみたらこの前私が主演を断った人だった。
ぺらっとめくって読んでみたら、どう見ても、水上君が出ることになっていた。
別に主演でも相手役でもなかったんだけど。
「なにこれ」
思わず呟いたのと水上君がお皿持って部屋に入ってきたのがほぼ同時だった。
「お前、何勝手に見とんねん」
「どういうテンカイで水上君が出ることになってるわけ」
「そんなんどうでもエエやん」
「よくないよ、なんで?」
「どうでもええやろ」
「よくないよなんで?」
すると水上君は黙ってこっちをじっと見てから目をそらし、冷たい声で言った。
「別にお前に関係ないやろ」
「はぁ?」
「生憎と秘密主義やねん」
は?
私には出て欲しくないとか考えてたくせに?
と思ったらもうすごい腹立たしくて、そのまま何も言わずに水上君の家を出て、歩きながらもう なんかすごい悔しくて、水上君からのメールも電話も着信拒否に設定して、今に至る、という。

もう三日経つな。
冷静になって考えてみると、なんかすごいどうでもいいことのようにも思える。
でも、関係ないとか言われたらやっぱりへこむ。水上君が何考えてるのか分からないし。
また、水上君のサークル合宿帰りっていうタイミングが最悪だった。
なんか本当に、もうお前要らないし、って言われた気分だった。
久し振りだったから上手に話せなかった。
水上君も、最初に顔を合わせたときからなんか妙に苛々してた。
ああ、最悪。
…というときはいい曲ができるものだ。
誰かが言ってたもんな。恋愛うまく行ってたらいい曲出来ないって。
ま、べつに普段恋のうたばっかり歌ってないからそうでもないと思うけどさ。
「アホらし」
ぐちゃぐちゃ考えてたら自分の気持ちまでよくわからなくなってきた。
大体、ベタベタな恋のうたをつくったってもう手遅れかもしれないよ。×××


つづく
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