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「せやから・・悪かったて言うてるやん!」
そんなこと言われても絶対許さん。
今まで我慢してたけど、もう我慢ならん。
「なー。まだ怒っとるん?」
ベッドの上で背中を向けて座ってる私の横に乗り上げてきて顔を覗き込もうとするから、 またそれに背中を向ける。
「なー。ナノカー」
いつもは呼ばない名前まで動員して私のご機嫌を取ろうとしてるし。
ふだんは「おい」とか「おまえ」とか呼ぶくせに。
それにだって実はへこんでるんですからね、私だってね、女の子なんですから。
「ナノカって。もう、ええ加減こっち向き?」
そんな耳元で甘く囁いたってダメ。
私は折れませんよ。
今日と言う今日は許さん水上将人。
大体、なんでかわいい女の子を見ると、「おお」とか言って私と見比べるわけ!
ナンパとか、もうそろそろ卒業しても良くないですか。
私という彼女が出来て、もうどれくらいになると思ってるのまったく。
関西人の性やー、なんてセリフは信じません。
関西人がみんなナンパ性なわけないじゃない。それはあれでしょ、水上君の性、でしょ!
とか、洗いざらいぶちまけてやりたいけどあまりにも腹が立っているのでそんな親切なことを してあげる気も起こりません。
完全に水上君に背中を向けてずっと何も言わずにいると、なんとか私の機嫌を取ろうとしてた彼は ついに逆切れした。
「もー、お前も強情やな。もうエエわ。そんなんするんやったらこっちにも考えがある」
と、言うなり私の肩をぐいと掴んで自分のほうに思いっきり引っ張った。
その力強さに逆らえず、ベッドに倒れる。
倒れてなるものかと思ったけど倒れてしまった。
しかし、このまま流される私でないのよ、怒ってるんだから。
「な、何すんねんオッサン!」
抱えていたクッションを盾にして私の顔を覗き込もうとする体を押し返す。
「オッサン言うな!」
「オッサン! オッサンオッサン!!」
「うっさいお前! ちょお、黙っとけ」
「黙りません! 水上君のアホ! エロオヤジ! おたんこなすー!!」
一気に言ってから盾にしてたクッションをその顔めがけて投げつけたら急に反応がなくなった。
打ち所が悪かったのかとちょっと心配になって水上君をよく見てみたら、肩が震えている。
「・・・水上君?」
何も言わないつむじに向かって恐る恐る声をかけたら、水上君はぶっは! って盛大に吹き出した。
「おたんこなすって久し振りに聞いたー」とかなんとか言いながらめっちゃ笑ってる。
それを見てたらなんかものすごい悔しくなってきて、水上君に投げつけたクッションを奪い取って また彼に背を向けた。
よく考えたら、クッションで打ち所が悪いとかあるわけないし。心配する必要ないし。悔しい。
「キライ、もう帰れ」
そのまま言ったら、背後から溜め息。
「お前、意地っ張りやなぁ」
うるさいな。意地でも張らなきゃやっていけないんだよ。
あんたみたいな彼氏を持つと大変なんです、こうでもしなきゃ身が持たないんです!
「うるさいな、だから帰れってば」
なんだか考えてるうちに本格的に悲しくなってきた。
水上君はいつも飄々としてて、それにすごく不安になったり、する。
けっこう長く一緒にいるけど、ある日ふらっといなくなるんじゃないかなとか。
今日は大丈夫だったけど、まさか、いつかホントに私よりかわいい子のところに、とか。
私よりかわいい子とかめちゃめちゃいっぱいいるしなぁー。
なんてぐるぐる悪い方へ考えていたら、また肩をぐい、って引っ張られて仰向けにされた。
「アホ。こんなの放って帰れるか」
私を覗き込む水上君は、さっきのバカにしたような笑い顔じゃなくて、なんだか困った、笑い顔。
・・・こんなのとか言うなよな。
へこんでるんだからちょっとはいたわれ。かわいがれ!
なんて、覗き込まれた顔を背けながらわがままなことを考えていたら、頭を撫でられた。
「お前はホンマにアホやなぁー」
あぁ。なんでこんな俺様な男、こんなに好きなんだろう。
しかも、私を悩ますこの性格とかも、実は大好き、って性質が悪い。
身が持たないよ。
「水上君」
「なんや?」
「すき」
「なん?」
「うそ」
言って水上君のほうを見たら、妙に真剣な目でこっちを見ているから慌ててまた顔を背けようとした のに阻止された。
「嘘なん?」
「うそだよ」
「そおか」
阻止したくせに今度は自分から目を逸らそうとするから、今度は私がそれを阻止する。
「だいすきだよ」
って、言って。
そしたら水上君は、赤面して固まった。
おんなごころのわからんやつめ。
こういうときに、「俺もやで」とか絶対言えないよね。普段の態度はあんなに強気なのに、 肝心なところだけ妙にヘタレ。
じー、っと見ていてもずーっと固まってるからなんかさっきまでの妙な不安が消えていって、 それが嬉しいからその赤面した顔にふふん、と笑ってあげた。
このヘタレなところも妙に愛しい、とか、重症だな私も。
すると水上君はハー、って息を吐いてベッドに倒れこんできた。
「せやからおまえにはかなわんねん」×××

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