うた




「ヒカリ、ヒカリ」
眠っている私の耳もとで、誰かの声がする。あまりにも何度も私の名前を呼んでいてうるさいのでちょっと目を開けて声のでどころを確認すると、そこにはこびとがいた。むかし、絵本で読んだ感じの。なんだ夢かと思って、でも夢も見たくないほど眠かったから、そのまま無視して眠りへ戻ろうとしたら、だんだん声が泣き声になってきた。
「ヒカリ、ヒカリ」
耳もとで泣かれたのではもう寝ているわけにもいかず、しぶしぶ目を開けてもういちどこびとを見ると、こびとはぱっと目を輝かせた。おいおい、泣きまねかよ。と私が小さくため息をつくと、こびとはちょっとばつの悪そうな顔をした。
「なに」
私が寝起きのかすれ声で尋ねると、こびとは言った。
「うたを、歌って欲しいんです」
「・・・は?」
「あの、ぼくの好きな子が、今日誕生日で、それで、」
こびとは語彙が少ないのか緊張しているのかなんだかわからないが、やたらとしどろもどろに喋った。でもそのしどろもどろっぷりが、なんとなく誰かを思い出させた。ああ、そういうことか、と思って私は歌った。誰にも聞こえないほどの小さな声で。こびとは満足げにそのうたに耳を傾け、小さく『ありがとう』と言って消えた。
私のうたは届いただろうか。こんな小さな声でも、届けばいいと思った。






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