サッカー部の彼



サッカー部エースの大沼君は我が校のアイドルだ。
女子たちのほとんどが彼に何らかの興味を持っている。
私もそうだ。
でも、私の興味は大沼君本体にあるのではない。
大沼君はゴールキーパーの天野君と仲がいい。
エースとキーパー、なかなか強い信頼関係で結ばれているらしい。
私は、大沼君みたいに天野君に頼りにされる女になりたい。
だから、大沼君に興味がある。

「一ノ瀬ー。」
「あ、天野君」
「金貸してくれー」
「えー」
私と天野君は、中学の頃からの腐れ縁。
だから実はけっこう仲がいい。
普通のお友達。
それなりに満足だけど、天野君はすごく友達の多い人だから、それだけじゃ気に入らない。
私は大沼君みたいになりたい。
「天野ー、女の子からお金借りるなよー」
そう思っていたら、大沼君が私たちのほうへ歩いてきた。
大沼君とは同じクラス。ちなみに天野君は隣のクラス。
大沼君は天野君になにやら訓示を授けながら漱石さん一枚を取り出して手渡している。あぁ、また先を越された。
せっかく天野君が私のところにやってきてくれたのに。
いいなあ、男同士。
いいなあ、大沼君。
どうやったら大沼君みたいになれるんだろう?
と思ってちょっとすねていたら、天野君が私の顔を覗き込んだ。
「どした?いちのせ」
「いいなあとおもって」
「俺が大沼から金を借りるのが?」
「うん、そう」
すると天野君はちょっと悲しそうな顔をした後、唐突に言った。
「俺は大沼が羨ましい」
「は?」
「俺は一ノ瀬が金を借りたいと思うような男になりたい」
「何言ってるの」
すると天野君、突然赤面した。
助けを求めるような顔で大沼君を見る。
すると大沼君は首を振って、何も言わずに去っていった。
私はその間に、天野君のことばを理解しようとした。そして天野君の間違いに気付く。
「天野君、私がいいなあと思ったのは、天野君に頼りにされてる大沼君が羨ましいなぁ、って意味なんだけ…」
「俺、一ノ瀬すっげー好き!」
私が話している最中、突然叫んだ天野君。
一瞬何がおこったのがわからず唖然としていると、天野君はさっきよりさらに赤面してうつむいていた。
困った。
私の足りないことばのせいで、天野君に告白、されてしまった。
しかもあまりに唐突に。
さんざん困って黙りこくっている私を見て天野君は「言いたかっただけだから、迷惑なのはわかってるから。それじゃ」と去っていきそうになった。
「天野君、カンチガイしてる!」
私は思わずその手をつかんで天野君と同じように叫んでいた。
「え」
「私が羨ましかったのは天野君に頼りにされてる大沼君だもん!私も天野君に頼りにされたかったんだもん!!」

***


サッカ−部エースの大沼君は我が校のアイドルだ。

天野君と私はそのことに気をとられすぎて危うく両想いを逃すところだった。
大沼君はといえば、なんと私たちの気持ちに気付いていたくせに黙っていたらしい。
くやしいから、絶対なってやる。

大沼君よりかっこいい、大沼君より天野君に頼られる女に。




このおはなしはGIFT内「エースの憂鬱」に続きますので、
よろしければそちらもどうぞ。




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