わがまま
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我が校の敏腕生徒会長、七瀬いずみは自転車通学だ。
大して遠くもない俺の家のお隣さんから毎日自転車で飛び出してゆく姿はなんとも言えない。
そして帰り道はもっと何とも言えない。
歩いて帰ろうとする俺の後ろから、まるで待ち伏せでもしていたかのように彼女はやってきてこうのたまうのだ。
「ゆーすけー、こいでかなーい?」
「乗ってかない?」とは決していわない。
こいで行けという。なんて理不尽な。
今日も校門に差し掛かったあたりで、いつものように彼女が声をかけてきた。
たまには反抗してみろ雄介、おまえのわがままに毎日付き合ってやるほど俺は暇じゃないんだ、と言ってやれ!
と思うのに、気が付くと「仕方ないなあ」とかそんなことを言いながら差し出された自転車にまたがっている自分がいる。
なんて情けない。
「おまえ、今日は執行部の仕事あるとか言ってなかったか?」
「そんなのこの敏腕会長にかかればものの5分で終了だよーん」
「何が敏腕だか、きのうだってケーキ焼こうとして焦がしたくせに」
「うっさい! そういうことは言わなくていいの!」
「へいへい」
ぽかり、とグーで殴られたので、仕方なく家のほうへ向かって自転車を漕ぎ出そうとすると、
「あー、ちがうちがう、そっちじゃないよ、こっちこっち」
と、彼女が急にハンドルを反対側に切った。
「おい! あぶ、あぶなッ!!」
急な方向転換でバランスを崩しそうになって俺はあわてた。
そんな俺を見て彼女は盛大に笑う。
笑うなよチクショウ。
と思って振り返って固まってしまう。
彼女の笑った顔はとてもかわいい。
見とれてしまわないようあわてて前に向きなおってあわてて言った。
「こっち、家とは反対方向じゃん。どこ行くんだよ」
「い・い・と・こ・ろ」
「気持ち悪い言い方すんなよ」
「いいでしょー別に!」
またぽかりとグーで殴られた。
横暴なやつ。
なんでこんなやつに付き合って自転車こいでるんだ俺は。
理由なんて簡単にわかるけど、まだわかってしまうのはごめんだった。
だからもうしばらくは、このままでいよう。
彼女のわがままに付き合うのは、なんだかんだいって楽しいから。
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