風待ち(GREAPE VINE『風待ち』より。一部引用。)
     *
今、夏の感じがしました
明日も晴れだったなら
会いに行こうかな
     *
はっと気付いたら、知らないうちに一週間もたっていた。
そういうことが時々ある。
 そういう時はもったいないという考えと、これからもそういうような日々が続くんだろうなという考えの両方が頭をよぎる。何ともいえない嫌な感覚。
いくら眠っても眠いし、一日が永遠のように感じられるときもある。
でも、気付いたときにはかなりの時が過ぎている。
焦れば焦るほど、時はますます永遠のように早く過ぎてゆく。
こんなことをしている場合じゃないのに
こんなところでのほほんとしている時間なんかないのに
やりたいことが、もっと他にあるのに
頭の中は『のに』の洪水で、いつもちょっと重く感じる。
そして、鏡の中の自分はいつも物足りない顔をしている。こんな時が、ずっと、ずっと続くのかと思うと、頭がおかしくなりそうだ。
自分は別に、生きてても意味ないのかな。
欲しい物は簡単には手に入らない。
どうしても守りたいものはまだない。
日々は、雨が降り注ぐように過ぎてゆく。
止まない雨のように過ぎてゆく。
     *
「鈴村は、夏の雨、が好きでしょ」
となりで雨を見上げていた小石川が、唐突に言った。
「さあ? どうして」
「さあ? 」 どうやらいつもの思い付きだったらしく、小石川はどうでもいいような顔で首をかしげた。
「別にどの季節の雨が好きとかはないよ」
「そう? ・・雨はさ、どの季節のものなのかな。季節はずれとかってないのかな」
劇作家を目指す小石川は、時々はっとするようなことを言う。
羨ましいくらいにまっすぐ、やりたいことだけを見つめている。
自分は置いていかれているのだ。
そう思うのは、誰かのせいにする自分の弱さのためだろうか。
ここに逃げてきて早3週間。
相変わらず知らぬ間に過ぎてゆく日々を止められない。
「鈴村。」
「ん? 」 「何をそんなに焦ってるの」
「え」
「鈴村は何でもソツなくこなすフリをして、絶対必要以上にがんばり過ぎてる。昔から。それでいつも疲れた顔をしているんだよ、って、なんかそんな気がする」
突然、何を言い出すんだろう、雨を見上げたままの小石川の表情はうまく読み取れない。
「あ」
突然、思いついたように小石川は言った。
「雨、上がった」
そして、こっちを振り向いて笑った。雨上がりの空から吹く風は、夏の匂いがした。
     *
それからまもなくして、小石川は勉強のためとか言って、それまでためたバイト代で世界放浪の旅に出た。相変わらず突拍子もない。きのう、ギリシャからという葉書が来た。
「元気でやっています」という文章を書いた文字が、本当に元気そうなので、なんだかちょっとくやしくなった。
でも、最近はこう考えられるようになってきた。
小石川をうらやましがっても何も変わらない、自分は、ここでできることを精一杯やればいい。
今日も降ってきた雨はやんで、また、夏の感じがした。
明日もあさってもこんな風に考えられたら、会いに行こうかな。



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