Can you hear me?


3年ってなんなの。長すぎ。

地球儀ぐるぐる回してタメイキ。
大体どこよ、エル・サルヴァドルって。
行くとき教えてもらったけど、も、忘れた。
地球儀見てたって、だからムダなの。
もらったって空しいだけなの、地球儀なんて。

チクショウ。
今しかないとか言いやがって。
昔からの夢だったんだとか笑いやがって。
そんなで反対できるかボケナス。
あんたの昔からの夢をあたしが知らなかったと思うか野暮天!
えー、どうせあたしは肌が弱い上にアレルギー体質だからどこへも行けないわよ。悪かったな。

あぁもう。
要するに会いたいってことなの!
きこえないの?



「奏ー、電話!」
部屋でいつものように地球儀を回していたら階段の下から母親の呼ぶ声がした。
そしてすぐに部屋をノックする音。
「お母さん忙しいんだから自分で取りに来なさいよね! また宮斗君の地球儀見て。そんなにまわすと壊れるよ!」
コードレスの子機を机の上に置いて去ってゆく背中を見送り、電話機へと視線を移す。最初の頃こそ励ましてもくれたが、ミヤトが日本を離れて早数ヶ月、母にとっては、毎日地球儀にゾッコンな私が大層うざったいらしく、扱いもかなりぞんざいになってきている。
大体誰からだよ。それくらい言ってくれてもいいじゃん。
「はい、お電話かわりまし…」
『かなで遅いよ、電話代いくらかかると思ってんの』
そういうわけなので、はっきり言って思いっきり油断していた。
受話器から聞こえる声に、頭の中が完全に真っ白。
『ちょっと、カナ?聞こえてる?あれ、おーい』
よく漫画とかの電話でちょっと声聞いただけで泣いちゃうシーンとか見ながら、あたしには一生縁のない出来事だろうなぁと思ってたんだけど。
今、今まさに。
最強を誇る私の涙腺は一気に崩壊してしまったらしい。
ちょっとちょっと。
ミヤトが出発する時にもまったく決壊しなかったくせになんで今!
『かなでちゃーん? もしかして感激のあまり泣いてたりする?』
「なっ!泣い…てなっい…もん!!」
うわぁ泣いてるよバレバレだよもう、いっそのこと切っちゃおうかなだってこいつテンションがまったくいつもどおりで腹立つんだもんあたしがこんなに!
『マジで?』
「な、にが」
『ごめんかなで』
「だから何が!」
『なんか慣れるまで必死で。夢だったんだとか言ってでてきた手前弱音も吐けないじゃん?』
「吐け、弱音くらい。今更でしょ、何年一緒にいると思ってんの」
『いや、惚れた弱みと言いますか』
あたしがこんなに会いたいって思ってるのに!
「そういう男の意地みたいなのあたし嫌い」
『だよね、なんでそれを忘れるか、俺』
「あんたバカだよ」
『救いようがないよね』
「まったく」

受話器の向こうで彼が笑っている。
目を閉じて、ミヤトがどんな風に笑うかを思い出してみる。
どんな顔で私を見るかを思い出してみる。

ああ、やっぱり長いよ3年。
長すぎ。

『ねえ、呼んだでしょ』
「は?」
『あれ、違った?』
「……気付いてるなら早くしてよね」
だって電話がないんだよなんて言い訳はいいから。
『もっと呼んで。いつも奏の声、きかせて』
あなたのことばをもっときかせて。


見上げれば7月7日の曇り空。
一年に一回しか会えないふたり、今は羨ましいことこの上ない。



おわり。

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