人恋しいだけ、なんだけど。





>風邪をひいたよ、あたし

という、彼女からのメール。
…これは、どう返すべきなのだろうか。
迷った挙句、とりあえず無難に返事を送る。

>大丈夫?熱は?

すると返事は返ってこなかった。
意地っ張り、見栄っ張り、強情っ張りな彼女。
きっと今ごろ眠りもしないで携帯の画面を見ていることだろう。
なんてかわいげがなくてなんてかわいいやつ。
俺はひとりで笑いながらもう一度メールを送る。

>なんか食べたいものある?

するとしばらくして返信。

>みかんのかんづめ

やっぱり、眠っていたわけじゃない。
俺がここまでお見通しになってきたって、おまえはわかってるんかな?

>何、それは買ってこいってこと?

ちょっと意地の悪い返事を送れば、

>べつに

と、全くかわいくない返事。
そこがかわいいんだけど、俺としては。

>あ、そ?
でもま、これから行くから待ってなさい。

もう返事は返ってこないだろうからと思って携帯をポケットにしまいこんで、みかんのかんづめを買いに行こうと立ち上がった。

***


「おーい、買ってきたぞー」
「遅い」
「なんだよ、わざわざ買いに行ったやったのにそれはないだろー」
「べつにいらなかったの、かんづめは」
「なんだよそれ」
「そういう意味だバカ」

そう言って彼女は壁の方を向いてしまった。

「じゃ、いらないのかんづめ」
「たべる」
「何言ってんのかわかんないよ」
「いいよわかんなくて」

さらにそう言って布団を頭からかぶってしまった。
ホント意地っ張りだな、コイツは。
そう思って声を殺して笑っていると、

「笑うな」

と、くぐもった彼女の声。

「熱、ないの?」
「知らない、はかってないもん」

笑うのをやめて問えば、彼女はこっちを向いた。

「とりあえず、ちゃんとはかれよ」

俺の言葉を聞いて、彼女は何故か俺においでおいでをした。
何かと思って近寄ると、ぐいと、頭を引き寄せられた。

「あるみたい」

一瞬真っ白になった頭が彼女の声で覚醒する。

「あんたも顔赤いよ」

そう言って彼女は再び壁の方を向いて頭まで布団をかぶってしまった。
俺はどうしようとその場に立ち尽くす。
するとまた、彼女のくぐもった声が聞こえた。

「会いたかったからメールしたんだ、バカ」







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