2月14日の板チョコレート


普通の顔して差し出されたから、普通に受け取ってしまった。
2月14日の板チョコレート。





「あたしねー、本命は板チョコにするんだー。決めてるんだー」
ある日、友達のわたるが言った。
大沢わたる。女。
なんかさばさばした、女を感じさせないやつで。
「何で板チョコ?」
「シンプルでいいでしょ? それにチョコは板チョコが一番ウマイ!」
「へー?」
でも決して男勝りなわけじゃなく。
なんてゆーかそういうの全部超越した感じの彼女は、そう言ってへへんと笑った。

それは去年の春先の話。

そして今日学校で。
「おーい。まーことー。まことくーーん」
「ん? 何?」
「はいこれ」
「え」
「あげる。召し上がれ」
本当に何気なく普通の顔で。
渡されたのは間違いなく、板状のチョコレートだったんだけど。
あまりに普通の顔、していたものだから。
「あぁ、いただきます」
とかって、受け取ってしまった。
しかも。
そのまま帰ってきてしまった。
あぁ、最低、俺。
どーしよ俺。どーする俺。
いや、今更…。
確かにわたるのことは好きだけど。
義理か本命かもよくわかんないわけだし。
うーん。
…とりあえず食べてみよう。

銀色の紙を破いてみると、あらわれたチョコレートはシンプルなルックス。
あー。
これを本命に選ぼうっていう気になるかもしれないと思った。
彼女なら。

見ててもしょうがないし、一口。
「…たしかに」
他の子からもらったトリュフとか生チョコより、ウマイ。
シンプルで、なんか面倒なこと、超越した味がした。
まるで彼女のような。
…なんじゃそりゃ。

しばし無心で板チョコをかじっていると、携帯電話が机の上でぶんぶんなってびくっとする。
マナーモードのままだったのか、脅かすなよ。
そう思いながら携帯のディスプレイを見ると、

        大沢わたる

と表示されていた。
『もしもし』
「何?」
『んー』
「わたるさぁ」
『ん?』
「これ。どっちよ」
『わかんないんだなこれが』
「なにそれ」
『なんかきのうそれ見てたら買いたくなって。マコト見たらあげたくなったの』
「…なにそれ」
『ねえ』
「わたる、本命は板チョコにするとか公言してるからわけわかんなくなるんだろー?」
『でも、逆は必ずしも真ならずじゃーん』
板チョコをあげる人が本命というのは真ならず。
まぁ、それもそうなんだけど。
「焦るからやめろよなー」
『あたしも焦ったー』
「はぁ?」
『マコトが本命? とか思って』
彼女は電話口でけたけた笑っている。
「笑うなよお前なぁ」
『でも確かに今んとこマコトが一番好きだなーとか思ったりしてねー』
「え」
『だからま、今んとこ適切、って感じで!』
「な、ちょっ」
『これからの展開に期待! でわっ!』
「おっ…」
俺の返事を待たずに切るなよ…。

目の前には食べかけの板チョコレート。
今日は2月14日。
ああもう意味わからん。

無意識に残りのチョコにかじりついて、さっきの彼女のことばを思う。

『これからの展開に期待!』

…俺も!

おわり。

Have a good Valentine's day!
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