ある日の朝、ふと気付く



「今年はいつもより早くない? 」
って私が聞いたら、
「そんなことないよ、いつもどおり」
って彼女は言っていた。
彼女がこの時期の私のところへ来るのはいつものことなんだから手帳にメモでもしておけばいいのに、いつも忘れてしまう。

実際は、そんなのどうだっていいって、思っているからだろうけど。

季節っていうのは案外唐突で、たまについていけなくなったりする。
特に夏から秋はどこが境目だか全然わからなくて、カラダとかココロとかが全然ついていかなかったりする。
「そんなひとのためにするしごと」って、初めて会ったとき彼女は言った。
なんで私のところにやってくるのかはわからない。
わからないけど毎年決まって、彼女はやってくる。

「今年の仕事は順調? 」
「んー、どうかな。雨が多くて急に寒かったりしたから」
「じゃあもうしばらくいるの? 」
「でも明日には終わりそうだから」
ちょっと期待を込めていった私に、すまなそうに彼女は答えた。
「じゃあじゃあ、今夜は鍋にしようよ!」
「えー、まだ秋なのにー? 」
「いいじゃん、また来年にならないと会えないんだからー」
だだっ子のようにじゃれつく私を、しょうがないなあと笑って、「からいのは嫌だよ」と彼女は答えた。

***


次の朝、目がさめるともうそこに彼女はいなかった。
水切りかごにはきれいに洗われた二人分の食器と鍋が置いてあった。
ちぇ、もう帰っちゃったのか、と思いながら窓を開けると、甘いようなやさしいかおりが部屋の中にふわり、と入ってきた。
どうやら彼女の仕事は滞りなく終了したらしい。
遠くにかすかに見える淡いオレンジ色を眺めながら、外の空気を吸い込んで、ああ、秋が来たんだなぁ、って、思った。







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