赤い手(スキップカウズ『赤い手』より。一部引用。) * 暇つぶしが下手な僕 だから待たせないでね 待っているのも辛い季節だからさ * 私の彼は私よりずっと年上だけど、とてもかわいい人だ。かわいくてかわいくて仕方ない。 たとえば、私は待ち合わせで、いつも彼を待たせてしまう。 わかっていてもどうしても、彼のことを待たせてしまう。 彼はどんな顔をして私を待っているのだろう。 すごく見てみたいけど見たくない。 見たらきっと、なんか負けた気分になっちゃいそうだから。 恋は勝ち負けではないかもしれないけど、とりあえず今のところ彼には負けっぱなしなのだ。くやしいことに。 彼はこれと言って趣味がない。彼の唯一の趣味だった音楽は、彼の仕事になった。だから本当に趣味がない。 ゆえに待ち合わせ場所に来ても暇を潰すものがない。 だから私は彼を待たせる。彼はいつも手持ち無沙汰に、子犬のような目で待っている。 かわいい。なんてかわいいんだろう。 そして今年も冬がやって来た。私が一番好きな季節。 寒い中彼を待たせるのはちょっと忍びないけど、でもやっぱり待たせてしまう。 白い息を吐きながら、遅れて走ってきた私より赤い手をしている彼。 ああ、やっぱりかわいい。 そしてとてもうれしい。 私はスピードを上げて彼のところまで走っていってその赤い手を取る。 すごく冷たい。 『今日も待たせてごめんね。』 そう私が言うと、彼は『もう待たせんなよ』と笑った。 『それはダメだよ』私が言うと、彼は仕方ないなって言う顔でまた笑った。 彼は“大人”だから、子供な私にちゃんと弱いところもみせてくれる。 でも私は子供だから、まだなかなかそうは行かない。 待ちながら私のことを考えてて欲しいから待たせてる、なんて、言えない。 やっぱり負けている。 こんな気持ちに、彼は気付いているのだろうか。 |
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