なんてすてきなんだろう
きみがいるこのせかいは

                                            how wonderful life is                           
                                               you in the world.

死んでみるのもいいかと思って、
終わってく一年と一緒に終わるのもいいかと思って、
とりあえず高いビルの屋上にのぼってみた。
空は破裂しそうなほどに青く雲ひとつなく、
飛び降りるのも最適だなあ、とぼんやり思う。

僕の人生は可もなく不可もなく、
いてもいなくても、
たぶん誰も困らないくらいの、
まあそんなあんまりあれなもので、
だからなんていうか、残念ながらそろそろ、
やる気がなくなってしまった。
恋でもしてれば。
またちがうんだろうけど。
そういうのも、うん。
残念ながらないしな。
もう、
めんどくさい。

「あー、はっけーん」
そんなことを考えながら、座ってた地面から立ち上がったときだった。
頭の上のほうから、のんきな声がした。
頭の上?
「こんにちわー、よい天気ですね」
まさかと思いつつ頭上を見上げると、にこにこ笑ったこどもが浮いていた。
「あれ、思ったより反応が薄い」
「え、何者?」
「もっと、ぎゃーとか、言えばいいのに…」
ちぇー、とか呟きながら、浮いてたこどもは僕の隣に降りてきた。
小さいな。
「えーと、はじめまして」
見上げていた目線を今度は下に下げると、浮いていたこどもはちょこんとおじぎした。
「はあ」
「わたしは、あなたの、天使です」
「は、はぁ?」
「天使ですよ」
そう言ってこどもは、子ども特有の真っ黒でガラスみたいに澄んだ瞳で僕を見上げた。
「天使?」
「うん」
「何しにきたの?」
「会いにきた」
「なんで」
「あのね、いま、ここでとびおりられたら、会えなくなっちゃうと思って」
「はあ」
そう言って天使であるらしいこどもは僕の左手をやんわり掴む。
「ねえ、来年は何がしたい?」
「来年は、別に、なにもしたくない」
「じゃあさらいねんは?」
「さあ」
「その次のとしは?」
「わからないよ」
「じゃあいまは?」
「いま?」
「すごくとびおりたい?」
「べつに、すごく飛び降りたいわけじゃないけど」
「じゃあ、じゃあ」
と言って、こどもは僕の手を握る手に力を込めた。
「わたしにだまされたと思って、とびおりるの、やめない?」
「はあ?」
こどもは真っ直ぐ僕を見上げたまま、両手で僕の左手をぎゅっと握った。
「だめ?」
なんだかその仕草がかわいらしく思えて、気付いたら僕は「いいよ」と呟いていた。
すると、天使だって言っていたこどもは天使っぽく、笑ったと同時に光って消えた。

なんてすてきなんだろう
きみがいるこのせかいは

って、そんなことがあったんだよ、と、僕はいつ君に話せばいいかな。
日に日に、あの日の天使に似てきた君に。
君がおなかにいるときの奥さんに話したら、「さすがわたしたちのこどもだね」って笑ってくれたけど。
君は、なんて言ってくれる?
ねえ、君があのとき来てくれたから、僕は世界をつまらないもののまま終わらせずにすんだよ。
君と、君のおかあさんはほんとにすごいひと。

あの日の屋上から見上げる空は、今日も雲ひとつなく青い。
世界はなんて、素晴らしいんだろう。


I wish you a happy new year!

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