93点。
その数字の横には、「放課後、中庭にて」と書かれていた。

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[ 恋愛授業(仮) ]
最終話.正しい恋のはじめかた

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きのう、現代文の時間。
突如プリントが配られて、何かと思ったら小テストだった。
抜き打ちかよ! とみんなが喚く中、彼女の方を見たらこっちを見てにやっと笑った。
なんて挑戦的な。
オレがこの2週間、どれだけ国語の勉強に全精力を費やしたか見せてくれるわ。
と、意気込みも新たにテスト用紙に向き直った。
大体、オレが国語、しかも現代文の成績が悪かったのなんてアンタの顔見てて全然授業聞いてなかったからなんだぞ知らないだろ。
と、なんだか悔しい言い訳を心の中で展開しつつも、ものすごく真剣にテストに取り組んだ。
負ける気がしない。
というか、今負けてしまうと多分もう一生チャンスが巡ってこないだろう。なぜならば、俺たち三年生の授業はもうすぐ終了してしまうからだ。
だから絶対に負けないのだ!
と、とにかく力の限り戦った小テスト。
それが今日返ってきた。
祈るような気持ちで点数を見て、放心してしまう。
オレ、俺ついにやったかも?
しばらく美しく書かれた93の文字に魅入っていると、ぱんぱん、と手を叩く音がした。
「じゃ、答え合わせします。みんな結構よくできてたよ。さすが試験前の緊張感」
はっと我にかえると、彼女はごく普通に授業に取り組んでいた。
その顔をじっと見てみるけど、視線は合わない。
淡々と答え合わせが終わり、淡々と、現代文の授業が終わった。

:::  :::  :::

放課後までが長かった。
何故って今日の現代文の授業は1限だったからだ。
最後の方はまったく、生きた心地がしなかった。
ハンパじゃない焦らされ方である。
生殺しだよ先生。
というわけで帰りのHRが終わると、俺は一目散に中庭へ向かった。
よく考えたらHRやってたのが待ち合わせの相手じゃん、と気づいて落ち込む。
こんなに急いでも相手が来てない。
なんだそれ、意味わかんねぇ。
なんだか情けなくなってきて、いつものベンチに座って指を膝の上でパタパタ動かす。
大学入学までに覚えなきゃならない課題曲。
何かやってないと落ち着かなかった。
ああこんなことならむしろヴァイオリンを持ってくればよかった。
「大下」
なかなか待ち合わせ相手が来ないのでぐるぐるいろんなことを考えすぎて、「だぁ!」とか意味不明な叫びを上げたとき、背後から声がして驚いてベンチから落ちそうになる。
「え、ちょっと大丈夫」
「先生、遅い」
「ごめん。覚悟を決めてきたつもりがまだ決まっていなかったみたいでいま決めなおしてた」
「それで、覚悟は決まったんですか」
「決まったよ。大下」
「はい」
「好き」
「は、へ、ほ」
「たぶん、好きになったの、あんたに負けないくらい早かったと思うよ」
「ホントに?」
「だから、私と、恋愛をしよう」
先生はひとつひとつ、丁寧に言う。
だから俺も、その空気を逃がさないように丁寧に答えた。
「はい、俺からもお願いします」
「9歳も年上の女と付き合うのは大変だぞ大下」
「うわ、なにその大人発言」
「だって大人だもん」
「あーどうせオレはまだまだ子供ですよ!」
俺の目の前に立ってにやにや笑いながら見下ろしてくる感じが気に食わなかったので、腕を引っ張って隣に座らせて顔を覗き込む。
「でも、だからもう絶対離してやんない。先生のこと」
そしてそのままちゅーのひとつもしてやろう、と思ったら相手に先を越されてしまった。
「私も離してやんないよ。覚悟しときなさい、大下楓」
そしてそのまま、風のように去っていってしまった。
照れ屋さんなんだから、とか考えている余裕も無かった。

でも、ああ。
先生と俺。
ここからやっと、はじまるのだ。

恋愛授業。
(おわり)

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