「ハノンさんお仕事訪問(前編)」

「携帯電話を忘れてしまったんだ」
って電話が掛かってきたのは10分前。
「届ければいいってこと?」
と、ちょっと嫌そうに訊いたのはあたし。
「できたらお願いしたいんだけど」
と言ってから、ああと言って忙しなく切れてしまった電話を見つめ。
私はいまだに悩んでいた。

どんな格好して行ったらいいの?

新さんの会社はここから電車で一駅のオフィス街にある。
何の仕事だかよく知らないけど。
色々やってるみたい、大きな会社だし。
私はいろいろ知らない方がいいだろうと勝手に判断したから、何も訊かないようにしつつ、何もしらなすぎるのもあれだろうと思ってうちに来る数紙の新聞には全部目を通している。
細かいところや会社のことは新さんが話したいと思ったら話してくれれば問題ないわけで。
それまではしっかりとした知識だけを頭に入れておこうと。
結婚したときひとりで勝手に方針付けた。
だって18のコムスメだったのよわたし。

とにかく新さんの嫁として行くからにはそれなりの格好をしていかなければならないことは間違いない。
どうしよう、「それなり」って一番厄介!
と思ったところで本当に都合よく、ゆりりんがやってきた。
「ゆりりーん! 助けて!」
渡りに舟。
21歳のコムスメ二人でも、二人いればなんとか。
文殊の知恵まで行かなくていいからとりあえずそれなりでいいのよ。
「なにハノ、どした」
「新さんの会社に忘れ物届に行かなくちゃならんの服! 選ぶの手伝って」


さてそして案内したムダに広いウォークインクローゼットに、ムダにたくさんの洋服が並んでいる様をみてゆりりんは絶句している。
「ゆりりん絶句するのはわかるけど急いでるんだよ!」
「ハノ、本当に富豪と結婚したんだね…」
「何わかりきったことゆうちょるか、今更」
「今実感した…」
「こんなのほとんど着たことないよ、なんかくれるんだよいろんな人が!」
ああ我ながらすごい発言しているなぁ。
くれるんだよいろんな人がて。
「いろんな人がくれるの、ああそうかい。…じゃあ新さんがくれたのだけ出して」
「…いっぱいあるよ」
「じゃあ一度も着てないやつ!」
それもいっぱいあったけど怒られそうだったので、とりあえず適当に5着掴んで差し出した。
「…これにしなさい」
ゆりりんは私にあててみながら最終的に一着を選び出してくれた。
「なんか今日ゆりりん頼れる」
「ハノ自分で気付いてないけど新さんの事になるとメロメロだからじゃないの」
「気付いてます!」
えぇえぇ、新婚の頃より徐々にメロメロ度が増してますよ!
すいませんね!
「とにかく急いでるんでしょ、着替えれば」
ゆりりんは鬼の首取ったり、って顔で笑った。
くそう悔しい。

「これちょっとなんていうか大人過ぎない…?」
「ハノって洋服でイメージ変わるよね」
「質問に答えんか!」
「似合ってるってことだよー」
本当か?
なんか女っぽすぎやしないかい、これ。
「あ、化粧くらいして行きなよー。じゃあお忙しいってことなのでゆりは帰る」
「え、何しに来たの」
「ハノに会いに来たに決まってるしょー」
ああそうか、そうだよな。
「んじゃまた来んね。いってらっしゃーい」
ひらりと手を振って、ゆりりんはあっけなく帰っていった。
ゆりりんっていつも嵐のように去ってゆくなぁ。
今度お茶に誘ってあげよう。


…化粧、OK。
洋服、多分よし。
新さんの携帯、持った。
お財布持った。
鍵かけた。

よし。
いざ出陣!

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