「ハノンさんの標準的な一日」

朝はわけもなく早起きが好き。
特に新さんがいる日は遠足の日の子供みたいに早く目が覚めてしまう。
今日は新さんがいるので6時半ごろ目が覚めてしまった。
本当にただの子供ねハノン。

起きたらまずは天気予報を見る。
そして実際の天気を見る。
そして洗濯。
よく晴れているとき、本当はカーテンなんかも洗ってしまいたいんだけど、うちのカーテンはクリーニングなんですって。
お金持ちの家の備品はお金がかかってよくないわ。
新さんが子供の頃からお世話してます、っていう使用人の市香さんも、週に2回やってくるし。
まぁ、いいひとだしいいんだけどさ。
あたしの生活と違いすぎてかなり戸惑うよいまだに。
そろそろ3年目で慣れては来たけど。

洗濯機を回している間にご飯を作る。
本当に育ちがいい人って言うのはあれなのね。
朝ゴハンはけっこう質素みたい。
いや、これは新さんのおうち限定なのかもしれないけれど。
標準的日本の食卓を作っただけで、充分新さんは満足する。
世界各国、飛び回ることもあるので。
家に帰ってくるときには和食で迎えて差し上げる。
とりあえず今朝はお味噌汁とご飯と子持ちししゃもとお漬物。
新さんは子持ちししゃもを残酷な食べ物だと言う。
子供みたいで面白い。
驚くくらい純粋だ。
一緒にいると毎日楽しい。

「おはよー」
だんだん楽しくなってきて鼻歌を歌いながらお出汁を取っていたら、背後からちょっと掠れ気味の声がした。
「あれ、新さん、起こしちゃった?」
「肌寒さに目が覚めたよ」
「私で暖を取ってるみたいな言い方はやめて」
「目覚めたときには絶対いないもんなーとなりに。僕ハノンの寝顔って見たことないよ」
「嘘」
「だって僕が遅く帰ってくるときもほとんど起きてるでしょう、一体いつ眠っているの?」
「ちゃんと眠ってますよ、新さんがいないときとか」
「見たい、寝顔」
そんなかわいい顔で駄々こねられても困るんですけど。
あなた、今ここで眠れとか言いそうな勢いじゃないですか。
「また今度ね」
笑顔で切り返すと、ちぇ、と呟いてそのままダイニングの椅子に座り込む。
パジャマを着てちょっと寝癖がついた頭、眠たそうに揺らして、ぼんやりこっちを見ている。
ああちょっとやめてくださいまし。
その姿。
かわいすぎる! 本当に私より4つも年上なの? そんなで代表取締役の付き人とかやれているの?
私はちょっとだけ心配です。妻として。そのかわいさを表でだしたりしてないかどうかが。
ええそうこれはきっと嫉妬てやつですね。
あたしにもこういう感情あるのか、びっくりだよ新さん。
「ねぇ」
「なぁに?」
彼が囁くように言うので、私も囁くように返す。
朝の空気はぴんとしていて、小さい声も近くに聞こえる。
「もう歌わないの?」
「え?」
「寝顔は今日は諦めるから、もうちょっと聴かせて」


朝ごはんを食べたら、新さんはまた出張だ。
あたしはそれを見送ってから洗濯物をベランダいっぱいに干して、それにちょっとだけ満足したあと、きのうのやりかけのパッチワークにでも取り掛かるんだろう。
それから唐突にやってくるゆりりんの相手とかをして、パッチワークに飽きたらお部屋の細かいところをお掃除でもして、ちょっと淋しくなったらベッドにうつぶせになって昼寝でもするんだろう。

ミニマムな世界で完全に満たされた暮らし、あたしはここでどんどんすごい人になるのか、どんどんダメになるのか。
とりあえず今のところ、考えたくない。

2003.5.13

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