「ハノンさんのクリスマス」


クリスマス、というのは他のどんな行事よりも、忘れることの少ないものだと思う。
テレビ、ラジオ、スーパー、デパート、商店街、ありとあらゆるところで赤と緑が舞い踊り、軽快な音楽が流されているから。
しゃんしゃん、と鈴の音とかが入ってたりしてね。
やりすぎ、やりすぎ、と思うけど、まぁ悪いこととも言いきれないので放って置く。
ご近所のお宅が、「そんなにつけたら家の電気をつけた瞬間にブレーカーが落ちてしまうんじゃあ」っていうほど豪華絢爛なイルミネーションと化しているのはどうかと思うけれども。

我が家は、と言えば、ある日お義姉さんから宅配されてきた大きくて品のいいクリスマスツリーがリビングに飾ってある程度だ。
それでも私としては、充分、である。
大体、日本人はキリスト教徒とかではないくせにクリスマスに取り憑かれたかのようにやれプレゼントはいくらくらいものもが欲しいだとか恋人が欲しいだとかクリスマスディナーだとか、一年中の他のどの行事よりも大騒ぎをしている気がする。
という話をゆりりんにしたところ、
「ハノは今幸せだからそういうことが言えるんだよ! あたしじゃない人にそんなこと言ってみなさい。蹴られるよ」
といわれた。

そう言われると。
確かにその通りかもしれない。
でも、蹴られるってどうなの。

今日は朝からとんでもなく寒く、朝のお天気おねえさんが「今日はあたたかくしてお過ごしくださいね」と笑顔で言っていたので、それをいい言い訳に家に閉じこもることにした。
家は広すぎてそんなにあたたかくはならないのだけれど。
そういえばそろそろ大掃除もせねばなるまい。
次の新さんの休みはいつかな、などと考えていたら玄関の開く音がして、続けて「さむーい!」という叫び声が聞こえてきた。

「お帰りなさい新さん。早かったね」
「うん、仕事がはやく片付いたから。ハノン元気だったー?」
「寒かった!」
「そーかそーか、じゃあこれ!」
「え?」
笑顔で差し出された包み。
白いリボンがかかった紅い包装紙。
「開けてみて」
「…え」
開けてみれば真っ白くてふわふわしたマフラーと手袋。
「メリークリスマスには早いけど。寒いのに渡すのをその日まで待つのもあれだしね」
言いながら私の手の上にあるマフラーを取って私の首にぐるぐる巻きにしている。
この前、家を飾り付けていた隣のお宅のご夫婦のような楽しそうな顔で。
「うん、似合う似合う。かわいい」
「すごい、私白いの欲しかったの」
「本当? 以心伝心だ」
「またそういうことを真顔で」
私が照れると新さんはへへへ、と子どものように笑った。
「ところでハノンはなにしてたの?」
「ん、クリスマス、何をつくろうかを考えていたところ」
「ごはん?」
「そう。それからケーキとか」
「楽しみだなー」
包装紙にかかっていた白いリボンをくるくる指に巻きながら、新さんは今にも踊り出しそうだ。
「新さん、次のお休みはいつ?」
「実は今日から一週間クリスマス休暇!」
「本当に?」
「本当!」
「じゃ今日は寒いからのんびりして、明日は大掃除しようよ」
そう言いながら本当にちょっと踊っているような足取りでリビングに向かう新さんの横に並ぶと、新さんはびっくりした顔で立ち止まった。
「すごい、今僕もそう思ってたところ」
その背中を追い越してリビングの扉を開くと、暖かい空気が流れてきた。
「本当? 以心伝心だね」
さっき新さんの言ったせりふをお返しに言ってみる。

確かに幸せだからそういうことが言えるんだなぁ。


2003.12.20

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