「ハノンさん二度寝をする」


朝。
手に妙な圧迫感を覚えて目を覚ますと、隣で新さんが眠っていた。
出張から帰ってきたその格好からネクタイと上着だけ取ったところで力尽きました、という感じの、なんとも窮屈そうな格好で。

私の手をぎゅー、っと握って。

その姿に何か妙な感動を覚えたり、あまりにも幸福そうな顔をして眠っていることに泣きそうになったりとひととおりの感情の流れを冷静に味わいつつ、さてどうしたものかと途方に暮れる。
とにかく新さんの手の握り方ときたら、本当に眠っているのか甚だ疑問になるほどの力強さで。
ためしに指を一本はがしてみたら「うーん」と唸り、起きたのかなと思って覗き込んでいる隙にその指が元の位置に戻っているという徹底ぶり。
絶対放しません、って。
そんな感じで。
「新さーん」
小声で呼びかけてみたけれども、特に起きそうな様子はなく。
何時ごろ帰ってきたかわからないから、たたき起こすわけにもいかないし。
こんなによく眠っているのを見るのは久し振りな気もするし。
「大体近頃働きすぎですよ、あなた」
握られたままの手をゆらゆら揺らしながら呟く。
繊細な寝顔は起きる気配なし。

しばらく見つめて、かすかに上下する胸と呼吸を合わせてみたらだんだん眠くなってきた。
あいかわらず、放されそうにない手のひら。

時計を見ると、そろそろごはんが炊き上がる時間だ。そう思ったとたんにあくびが出てしまった。
あれれ、と思って新さんの顔を見て。
繋がれた手を見て。
もう一度時計を見て。

もういいやと思って、ころんとベッドに横になった。


2003.10.1

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