「ハノンさんお散歩に行く」

出張から帰ってきてちょっと疲れた顔をしていたのに新さんはこう切り出した。

「あじさいが咲いたから散歩しようか」

その誘い文句があまりにもステキだったので、雨なのに出かけることにした。


私も新さんも「散歩」というものがかなり好きな人種だと思う。
これは結婚してしばらくしてから気付いたことで、こういう波長が合うのは素晴らしいことだと思った。
新さんは前を向いて一歩一歩しっかり歩く。
私は踊るように歩く。とは新さん談。
「そういえば今日は雨なのによく外に出る気になったね」
「なにそれ、誘ったの新さんじゃない」
「うん、一瞬忘れてたの、ハノンが雨嫌いなこと」
「嫌いじゃないんだって、苦手なだけだって」
傘をくるくる回しながらみずたまりに長靴で入っていった私を子供みたいと笑いながら新さんは言った。
雨が降っても新さんがいると別に嫌でもないことはあえて黙っておく。
最近私がどんどんメロメロになってきていることはきっとばれているので。
そこまで自分で言ってしまうのはなんだか悔しい。

大体なんで結婚4年目に入ってるって言うのにドキドキしなきゃならないのかしら!
いや、まぁそれはおそらくとても幸せなことなんですけれども。

「あ、こんなところにもあじさい発見」
「ほんとだ」
「あじさいってさぁ、花が咲いてないときは全然気付かないくらいひっそりしてるのに咲くとすごいよね」
「ね」
家の周りは閑静な住宅街で、都心のわりには緑が多くて。
よく見渡すと季節を追っていろんな花が咲く。
「ハノンみたい」
「え?」
「なんかね。ハノンはあじさいみたいなひとだね」
「どういう意味?」
「気付いたらいろんな色になるとことかさ」
「いろんな色って」
「見てるだけで飽きないってこと」
「ひどいな人を鑑賞物みたいに!」
むっとしながら言ったのに新さんはくすくす笑っている。

ああどんどん笑ってちょうだい。
疲れた顔して帰ってきたあなたがちょっとでも元気になれたらあたしはもうそれで充分なんだから。

「あと、見てると幸せな気分になるとこも似てる」
「それはこっちのセリフなんですけれど」
「ええ?」
「あ、このあじさい星の形してる」
「本当だ」
照れくさいのでごまかしてしまいましたが。
見てると幸せな気分になるのは私も。

2003.6.12

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