「ハノンさんのお気楽な日々」

「ハノ、ハノー」
「おう、ゆりりん。どうした?」
「どうしたもこうしたもないさぁ!」
洗濯をしてお掃除をして、んー、このあとなにしよう、ゲームかなー刺繍かなーお料理かなー、と思っていたらのんきな大学生ゆりりんが突然やってきた。
「あたしもう嫌だよークニに帰るー」
「なにゆうちょるゆりりん、あんたこのクニ生まれのこのクニ育ちじゃろ」
ゆりりんは私がだしてあげたきのう焼いたシフォンケーキを食べながら、幸せな顔と不幸な顔を交互に貼り付けて私に意味のわからないことを訴えてくる。
「なんであたしにはいなかもないのさ、ずるいよずるいよ」
「ゆりりん、なにが言いたいん?」
ああ、平穏な午後の楽しいひとときが。
有閑マダムのうっとり午後を奪うか、幼なじみのブンザイで。
「ハノは正解だよ、大学なんか行くべきではないよ、結婚は正解だ!」
「それがいいたいの? ゆりりんはだめだよ、ゆりりんは結婚してしまったら大学に行かなかった自分を悔いるようなひとだよ」
「何でそういう酷いことを真顔で言うか」
「ホントのことやし」
真顔で切り返すとゆりりんはむくれた。
「何でハノはいつもそんなに自信満々なん?」
ははは。
わかいなゆりりんは。
アタシにはそんな若さはどこにも残ってないさ。
と思ってふうと息を吐くと、そこへ突然男性の声。
「ハノンは愛されているからだよ」
「あー新さんおかえりー」
「ただいまー」
誰かと思う暇もなく私のダンナ様。
「なんでー、お仕事は」
「ん、突然半日オフになったから帰ってきたよ」
「わーい、それじゃあ新さん、何かして遊ぼうよー」
「おう、そのつもり満々だー」
ゆりりんのことを忘れているわけではないけれども、新さんと会うのは一週間ぶりだったので実は泣くほどあたしは嬉しいのだ。
新さんはいわゆるひとつの資産家のご子息で、何もしなくてもたくさん転がり込んでくるお金を使ってあちこちに慈善事業に出かけてしまうという破滅的生活を送っていらっしゃるステキ極まりない方だ。
慈善事業でやってきた彼に難癖つけた小生意気なガキのあたしの唐突な申し出を笑って受け入れ、結婚してしまうという本当に破滅的に破綻した性格に、私はかなり惚れている。
「新さんはあたしが結婚申し込んでたらハノンみたいにあたしを愛してくれたかね?」
「いやゆりりん、残念ながらそれはない」
突然の新さん登場にあっけにとられていたゆりりん、突然妙なことを言う。
それはちょっぴり私も不安に思っていたことだったのでおいそんなこと聞いてくれるな、と思ったら新さんは何をおっしゃるウサギさん、といった顔でさらりとそのコトバを否定した。
「僕はハノンのずけずけ物を言う、破綻した性格が大好きだからね」
「新さんに破綻してるって言われたくないな」
「お互い様かな」
「その通りさ」
「ゆりりんはとても良い子だからそーやって悩んじゃうんだろね」
そうそう、よくわかってる、新さんは。
そうやってみんなのことを何故かわかっちゃう神様みたいなところ、あなたの良いところだけどとても悪いところだとあたしは思うわ。
と思ってちょっとだけ悪い目つきで見てやったら、その視線だけで考えてることを理解してしまった新さん、
「でもそういう僕のことをわかってくれるのがハノンだけなんだよ、だから僕は君が奥さんで幸せ、君じゃないとダメだ」
と、恥じらいもせずに言ってのけやがった。
「ああもうアタシお邪魔としか思えないし帰る」
柄にもなく硬直してしまった私にあきれたゆりりんはひとり何か納得したような顔をして、さっさと帰っていってしまった。
ああゆりりん。
あなたの悩みは解決したの?
「ハノン」
「…?」
「早く遊ぼうよ」
そう言って私を見る新さんの目がまるで子犬のようだったので、私は笑った。
「何して遊ぶ?」
「でもとりあえずおなかがすいたかも」
「はーい、じゃあご飯を作ってあげるから手伝ってー」
「ラジャー!」


とりあえずそんなわけで、ハノンさんの毎日はお気楽です。

2003.4.30

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