「オレが、殺してるのかもしれん」
こたつに身体の三分の二以上沈めて、畳の上に転がっている。
かろうじて見える金髪と右耳のピアス。
「・・・あぁ?」
朝っぱらから何を言ってんだ。
大学に行く準備をしながら、しょうがなく応じる。
父母はとっくに出勤し、今、この部屋には俺しかいなかったので。
まっすぐ手が伸びて、テレビを指した。
どーんという轟音とともに、画面いっぱいに一瞬、白い光が広がる。
なんでマイクは悲鳴を拾わないのだろうか、不思議に思う。
アナウンサーの声がかぶる。ついに開戦しました、と。
「オレ、こういうゲームやったことある」
と、ありもしないコントローラーを空中で持つふりをした。
よせばいいのに、と俺は思う。
どかーん、どかーんと続けて爆音がする。それに合わせて親指を動かした。
「オレ、ボタンを押すたんびに何人殺してんだろ」
そんなことは想像してみるだけ無駄だ。
実際にはコントローラーなんて存在しないし、所詮当事者にはなれないのだ。
ごそごそと寝返りを打って背をこちらに向けた。
ぐすっと鼻をすする音が聞こえる。
考えて悩む自分に浸って、それで満足したりするなら始末が悪かった。
「・・・知ってたけど、お前阿呆だな」
「悪かったな、あんたの可愛い弟だよ」
「本当に阿呆で驚いてるよ。これくらいで泣くか普通?」
「ちょっとした油断。ダメージ受けてよろけた瞬間に顎にアッパーをくらったんだよ」
ノックダウン。
ばっといきなり両手を広げて仰向けになり、ギラリと光る目玉で天井を睨んだ。
溜まっていた水滴が下に流れた。
右耳に。いつのまにかピアスの数が増えている。
悩める思春期の少年の心は、俺には理解できなかった。
「オレがこんなところで寝転がってるせいで、死んでってる人がいたりしねーかな・・・」
んなわけはない。
高校もろくに行けない不良高校生一人に、命を左右されてはたまらない。
「なんで戦争なんかすんだ?理解できねーよ」
「しょうがないだろ。戦争ってのはある程度人間の本能に基づいているし。利益か不利益か計算したら、やりたがる奴もいるんだろ」
「おにーちゃんさ、難しい言い方されてもオレ、さっぱり分からんよ」
「別にお前の理解は期待してない」
「冷たいの」
弟のふてくされた言い方に、低い舌打ちをする。
だって人間ってそんなもんだろ。
食べる目的でもなく、仲間を殺すなんて人間だけだろ。
ボタン一つで命消せるのも、人間だけだろ。
血の温かさなんてまったく感じられない、氷点下の冷たさだろ。
「俺は、赤の他人のために泣けるような、そんな阿呆がいることのほうが信じられねーよ」
「・・・あぁ?」
「学校行って勉強しろ。阿呆」
俺はこれから大学に行く。
今月中に仕上げなきゃいけないレポートを書く。
今日中に絶対仕上げる。
飯抜きでも徹夜でもなんでもして絶対仕上げる。
腹の底からわいてくる正体不明の怒りを、俺は認めたくなかった。
この世界の理不尽さを、認めたくなかった。
おしまい。
金田・藍さんの晴れた日の音がする。。10万ヒット企画でお持ち帰りしてきたものです。
ひとつかー、と散々悩んだのですが、実は心はこれに決まってたのかもしれないとも思う、
そんな私の心に残るおはなしです。
私は自己紹介のところに書いちゃうくらい、理不尽、っていうやつといつも格闘してる、気がします。
身近な「なんであたしは長谷京みたいなかわいい顔じゃないんだ!」ていうほんとどうでもいい理不尽から(笑)、
「なんで生まれてきたのに、愛されないまま死ななきゃならないの」っていう、
テレビの中で報道される痛い事実に対する理不尽まで。
私は理不尽、ってやつにいつも振り回されてる、と思う。
って、自分の話はどうでもよく!(笑)
そんな痛いところを突かれたお話で、とっても大好きなのでした!
金田さんにはHP開設当初から何かとお世話になっています。
10万もの人を集める大サイトの管理人さんなのに気さくなところがとっても大好きです。
これからも頑張ってください!
この作品の著作権は金田・藍さんにあります。
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