「いい加減にお休みになってください! いくらなんでもお体に障ります!」 深夜、リーンは耐えられなくなって主人であるところの王太子に抗議した。 連日連夜この王太子――イリアス王子殿下は精力的に働きすぎる。明け方近くまで書類を片付け、眠ったかと思えば朝議に出席するために、早々と起き出す。それなのに仕事の山は減らない。毎日毎日書類は山ほどやってくる。 それはひとえに政務をサボりまくって王妃と共に雲隠れする王のせいだったりするのだが、イリアスはため息をつくだけで特に文句を言うわけではない。最近では重臣たちもつかまらない王よりも王太子を頼りにしているようだ。 「んー、あともう少しでひと区切りがつくから」 イリアスは書類から目を話さずに言った。 リーンはもう注意するのを諦めて書棚の整理の続きを始めた。 先程から「もう少し」という言葉を何回聞いたことだろう。この王子の「もう少し」はいったい何時間を指すのか……。 知らずため息が出るのを止められない。 魔法で昼間と同じような明るさを執務室内では保たれているからまだいいものの、普通ではこうはいかない。ランプの明かりだけでこんなに仕事を続けていたら確実に目が悪くなる。 せっかく整った容貌をなさっているのに、視力補強の眼鏡をかけなくてはいけなくなったらもったいなさ過ぎる。 なんとかならないものかしら? それにしても殿下はなんて綺麗なの……。 遠くから見ていたころも素敵だと思っていたけれど、近くで拝見するとその比ではないわ。 女性にはよくありがちな価値観でもってリーンは思案する。 思案しながらも手は動く。それはリーンが本の整理に慣れているのと、この王子の執務室に出入りが多くなじんでいるせいもある。 イリアスがあまり回りに人が侍っていることを気が散るといって嫌うから、本当にイリアス付きと言えるのはリーンくらいだった。だから、二人でいる空間に慣れきってしまっていた。 リーンは自分の思案と本の整理に集中していた。 だから。 イリアスが仕事を終えて席を立ち、リーンの傍に歩いてきていることに気がつくのが遅れた。 「リーン」 あっと思う間にリーンはイリアスに後ろから抱きすくめられていた。 「殿下……?」 リーンは持っていた本を取り落としそうになった。それをイリアスの右手が止めて棚の空いているところに押し込み、リーンの手を空にした。 「仕事、終わったよ」 耳元で囁くように言う声が甘い。 「僕が立ったのに気がつかないほど何を考えていたんだい?」 吐息が耳にかかり、ぞくりと身体を震わせる。 「僕には言えないようなこと……?」 「い、いいえ……」 「じゃあ言って」 声は甘くて優しくて甘美なまでに酔わされるのに、イリアスの言葉は強制だった。 しかし、イリアスのことばかり考えていたリーンは、それがばれるのが気恥ずかしくて口をまごまごさせた。 「言って……」 イリアスはそう言いながらリーンの顎をとらえて自分の方に少し向かせて頬に口づけた。 唇のあとが信じられないくらい熱くなって身体が痺れるような感じがし、リーンは余計に動揺して口が開けなくなってしまった。 それを知ってか知らずか今度はリーンの身体を完全に自分の方に向かせて、彼女の腰を左手で、頭を右手で支えて深く口づけた。 何度も何度も繰り返される口づけ―――。 リーンの意識はその度に遠くなり、引き戻される。 イリアスと触れ合っているところだけがとても熱くて、意識がそこに集中する。 どれくらいの時間がたったのかわからない。リーンはイリアスにされるがままになっていた。 キスの合間に囁かれる言葉もとても甘くて――。 イリアスが口づけを止めたとき、リーンは彼の腕の中に崩れ落ちるようにもたれかかった。 「大丈夫?」 大丈夫な訳がない。 そんなことはわかっているだろうに……。 身体に力が入らないながらもなんとかうつむいてしまった顔を上げてイリアスを睨むと、イリアスは本当に愛しげにリーンをみつめて、再び口づけた。 「そんな顔をしたって僕を誘うだけだといい加減覚えたほうがいい」 そんなことを言われても、ではどうやって抗議の意思を伝えたらいいのかわからない。 「キスが嫌なら僕をぴっぱたくくらいのことはやってのけなきゃ」 そんなことできるはずがない。 「それができないんだったら、文句をいう資格はないよ。捕らわれの姫君」 くすくすと楽しそうに笑った。 リーンにはそれに反応している余裕は一切なかった。 冷静さも思考力も何もかもがどこかへ行ってしまって、その後を追って自分の元へ引き寄せようとすることで精一杯だった。 「ここのところ、すごく仕事が多かったと思わない? リーン」 突然、イリアスは話を変えた。それがなんだというのか全く分からなかったけれど、確かにいつもよりも多かった。 なんとか小さく頷くとイリアスは先を続けた。 「これだけ頑張ってるんだから、少しくらいの自由は許されるだろう? 重臣たちにしても納得してくれる」 何を、と訊ねるリーンのか細い声に、イリアスは彼女の手を取って答えた。 「きみを妃とすることを」 イリアスはリーンの手に口づけて言った。 「僕の花嫁になってくれるよね?」 END いやはや…。びっくりしますよね、友達なだけに(笑) |
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