そのちいさなおと(7)

「あぁー、ついに。」
あまりにぼーっとしていたためつっこまれ、麻生さんのことを白状した私にむかって、透子は言った。
「ついにってなんで。」
「だって麻生さん、ミエミエだったもん。ララばっか見てて。みんな気付いてたよ」
知らなかった。いつ見られていたのだろう、それすら覚えがないことだった。
「ホントに? 」
「ララは恋愛関係、鈍感すぎるんだよ」
それはまったくもって否定できない。
なんたってこの年で初恋だし。
「でも、あまりにもいきなりで」
言いかけて、目の前に、あの見慣れたハーレムを、発見、した。
そういえば私がアズサにあったのも、麻生さんと初めて会ったときと同じ頃だった。
いきなりとかそういうことは、こういう感情にはあんまり関係ないのかもしれない。
ハーレムのまんなかに、彼の後姿が見えた。
途端、私は小さな体をもっと小さくする。
見つかりませんようにと願いながら、ハーレムの横を通り過ぎようとする。
ずっと気になっていたくせに。
いざ目の前にしてみると、会いたくなかった。
しかし。
「ララー? 」
いつのまにか振り返った彼に、見つかってしまった。
透子がくすり、と笑う。
「なんでララそんなこそこそしてんの? 」
「だってハーレムの目がイヤなんだもんー。」
嘘だけど。
この言外に言った”嘘だけど”まで聞こえたみたいに、透子はまた笑った。
彼女はいろんなことを見透かしている。隠し事も何もあったもんじゃない。
きっと今、私の気持ちも悟られてしまったことだろう。
だからもうそのことは諦めて、そそくさとその場から逃げることにした。
ハーレムに笑顔を振りまくアズサを、見たくなかった。
この前と同じ無理した笑顔を、見たくなかった。
でもさいごにもう一度、後姿だけでもいいから見たい、という私の中の乙女部分の叫びに打ち勝てず、ちらりとハーレム中央の彼を見たとき。
はた、と気付いてしまった。
気付いてはならないことに。

ハーレムの女子みんなに同じように笑顔で接するアズサ。
みんなにまったく同じ笑顔で接するアズサ。

気が付くと私は、そそくさどころか駆け足で、その場から逃げてしまっていた。
後ろからもう一度、私を呼ぶアズサの声がしたけど、振り向いてその笑顔を見るのが怖かった。
今まであたりまえに見えていた笑顔が、誰のことも見ていないものだということに。
私は気付いてしまった。

いつから?
いつからアズサはあんなふうに笑っていた?

考えても考えてもわからなくて。
私はそれを、悲しい、と、思った。


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