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就職説明会があった。
ヘコんだ。
「もーダメだぁー」
部屋に帰ったら水上君が私のギターを弾きながらミスチルをうたってた。
水上君は器用でいいな。
もう就職決まってるんだもんね。
エンジニアになるんだもんね。
あのライブハウスも続けるんだもんね。
「お帰り、てか、どうしたん?」 
ベッドにもたれてギターを弾いていた水上君の横を通ってベッドに突っ伏したら、水上君はギターを 脇においてこっちを振り返った。
「今日就職説明会があったの」
「え、オマエ就職するん?」
「わかんないー」
「うた唄ったらええやん、今何社から誘われてるん?」
「んー、と、3? 4?」
「何で就職説明会出る必要あるん?」
ベッドに腕だけ乗せて、水上君は首を傾げた。
「だって水上君が」
「俺が何?」
来年にはもう社会人になっちゃうからじゃん、ってなんとなく言えなかった。
言うと悲しくなりそうだったから。
ていうかもう充分かなしいけど。
「あーもーダメだー。私の人生おしまいだぁー」
「はあ? お前何言うてんねん。人生に終わりやなんてあらへんで?」
「ヤだよ、私大人になるのヤだ。水上君だってさ、らいねんにはおとなになっちゃうじゃん。 私をおいて行っちゃうじゃん」
就職、の2文字を突きつけられて、私は本気でへこんでいた。
大人になったら今みたいな気持ちを忘れちゃうかもしれない。
私が変わっちゃうかもしれない。
水上君が変わっちゃうかもしれない。
それで毎日が続いたとしても、そんなのもう終わってる。
そんなの絶対イヤ。
「置いて行かんから。お前のことは置いて行かんから」
枕にうつ伏せになってちょっとうるうるしていたら水上君が頭を撫でてくれて、嬉しさに余計うるうる してきて顔が上げられない。
「それと、おまえはうた唄い? 前にも言うたやろ? 俺、お前の歌好きやねん」
「ホントに?」
「ホンマやで」
「でも全然売れなくてそのままポシャったら?」
おそるおそるきいたら頭上から溜め息が聞こえてきてちょっと悲しくなった。
「置いてく?」
「置いて行かん」
「ホントに?」
「ホンマやって」
いつになく優しい水上君の声に枕から顔を上げたら、声と同じ優しい顔でこっちを見てた。
そして水上君はその顔のまま笑ってそれに、と言った。
「お前は絶対ポシャらんし、ポシャっても俺はずっと一緒に居る。んでずっと聴くで? ナノカのうた」
「ホントに?」
「だからホンマやって」
「うわあい!」
「なんやねん」
水上君のことばに突然目の前がぱっと明るくなって、思わずベッドの下の水上君に抱きついた。
水上君は笑いながら私の背中をぽんぽん叩いてる。

水上君が私のうたをずっときいててくれるなら、私はきっと変わらない。
水上君もずっと変わらないでね。
ずっと唄いつづけるから。×××

next : I leave it to your imagination.

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